てけてけ
歩いてます。廊下を。

てけてけ
人を探してます。






最初に、その人が居るであろうリビングにきました。
千種が居ました。その人は居ませんでした。
千種にその人の居場所を訊きました。

「知らない」
「・・そう」

残念です。自分でまた探します。


てけてけ
また廊下を。

てけてけ
歩いてます。


今度は外へ行きました。
あの人はたぶんお外には居ないでしょうが、もう一人のあの人は居ると思います。


てけてけ
土を挟んで。

てけてけ
ガラスの上を歩いてます。


人ひとり入れそうな穴があります。
そこを覗けば、予想通りの犬が居ました。
穴の奥底は、ココからでは少し遠いです。それもそのはず。
ココは土砂崩れで埋もれた『植物園』なのです。天井は高くないと。

そんな広くて真っ暗な空間で、犬は修行してます。
あの人曰わく、先日ココで勝負にマケたらしいのです。
その人も、直接見たわけじゃないからよくわからない、と。
悲しそうな目で語っていました。

訊いちゃいけないことだったのかもしれない。
だってこの悲しそうな目は、3人がする目だったから。
3人が共通する悲しみは深いから。

つい思い出して、思い耽っていました。
犬に話しかけることも忘れて黙って見てると、先に犬が私に気づきました。

「テメー、何やってんだびょん!!影にすんな!」

怒ってしまいました。
真っ暗な空間の中、頼りになる数少ない穴からの光を私が遮っていたからでしょう。
すぐに謝って、犬にもあの人の居場所を訊きます。

「知るわけねーびょん!さっさとアッチ行け!!」

・・・犬なら匂いでわかると思ったんだけど。
そう思い、犬を見つめたままでいると「あぁぁぁぁ!!」と叫ばれました。




「メンドくせぇな!部屋、部屋だびょん!!」

「ありがとう・・・」




やっぱり犬は知ってました。
お礼を言って、言われた通りその場から離れました。
「まったくしつこい女らびょん!!うぜーったらありゃしねーびょん!」

・・・私の声は聞こえなかったと思います。


てけてけ
歩いてます。・・ガレキの上を。

カッカッ
登ってます。はしごを。


やっとあの人の居場所がわかったので、まっすぐそこへ向かいます。
あの人の部屋は、骸さんのお気に入りだった部屋のすぐ側です。
なので部屋は上のほうです。
ココは不便なことに、階段はすべて破壊されていて、使えるのはこの非常はしごのみです。
今となってはこのはしごを使うのは私だけです。3人は身軽だから壊れた階段でも使えます。
私がココへくる前は、誰か数人が使ってたみたいで、前までは汚れてました。
でも私が使ってると知ったあの人ははしごをキレイに掃除してくれました。
とても優しい人です。
これから私があなたに会おうとしてるのも、あなたが優しいからです。


てけてけ
もうすぐ…

てけてけ
あなたに会えます。


ドアが見えました。ココへは3回ほどしかきたことありません。
それほどあの人はリビングや他の場所に居るから。

息を吸ってドアに向かって数回ノックすると、中から返事が返ってきました。
「どうぞー」
お言葉に甘えて、部屋へ入ります。


てけてけ
着きました。




「どうした?髑髏」




あ、うわ。携帯ヒビ入ってる。買い換えたい。
そう言ったはいつものファッション雑誌を見ていました。
・・・何か普通の女子高生みたい。
そう思ってると、キリがいいところになったのか、顔をあげて私を見た。
雑誌を少し見たら、文字がたくさん書いてあるページを開いてた。(優しい・・)
の近くへ行っていつものイタリア講座のわからないところを訊く。
そうするとは丁寧に教えてくれます。
は日本語上手だね・・と言うと
慣れだよ慣れ。日本に居ると上手くなんの。と言われました。

なんだかすごく興味が湧いたので、いろいろ訊いてみることにします。



「最初は?」

「イタリアで猛勉強。日本に行くってわかってから」

「日本でわからない単語あった?」

「そりゃあったよ。でも元々が私、日本とハーフだったし勘で乗り越えた」

「どのくらいで日本にきたの?」

「だいぶ経ってから。骸さんたちにも教えてたし」

「・・・へぇ」



初めてみんなのこと知った気がする。
その前に、初めてとこんなに話したかもしれない。

膨らんだ興味は聞けたことで破裂し、またモチのように膨らみ始める。



「雑誌・・・好きなの?」

「世間の流行に流されてれば普通の女子高生っぽいかなって。カムフラージュ」

「・・・こっち、男性雑誌?」

「だってみんなセンスないんだもの。変に見られるでしょ」



そうだったんだ。
そういえば犬が新しい服欲しいって言うとき、に言ってた。お財布係は千種なのに。
ますます興味が膨らむ。『もっと聞きたい』。
そう思っての顔をみつめれば、「あはは」と笑って私の頭を撫でる。



「髑髏も見る?センス養っとかなきゃいけないしね」

「うんっ(コクコクッ)」

「そこにある本棚から好きなの取っていいよ」

「・・・・(スッ)」

「それ男性雑誌だよ」



は「あははははっ」とさっきよりも笑っています。
だってみんながどんなの着てるのか知りたかったから・・・。
そう言うとは座っていたベッドから立ち上がり、私のところまできました。

「じゃあ髑髏が部屋に帰るとき持っていきな。今は私が居るし、こっち読も?」

そう言って本棚から1つの雑誌を抜いて私に渡す。
あれ、ここに居ていいの・・・?
そう思ったときにはすでにベッドに座らされてて、雑誌を受け取っていた私。
はベッドに寝っ転がり、
「聞きたいことやお気に入りがあったら言ってごらん」
と言って自分が見ていた雑誌に目を戻しました。

早速言われた通り、雑誌を見てみます。
パラパラと目を通します。


・・・・・・・でも何も思わない。


中には細長い人たちが色々な服を着ている写真。私は可愛いとも、これがほしいとも思わなかった。
いつまで経ってもパラパラと捲る手は止まらないことに気づき、はまた話しかけてくれた。
「・・・趣味に合わないよね」
「・・うん」
特に着たいというものもなく、特に可愛いと思うものもなく。
髑髏のセンスとは趣向が大分違かったかな、とは少々困り気味にベッドから立ち上がった。



「じゃあ私の服でコーディネートしてみようか」

「え?」

「好きなもんあったらあげるし、どう?」

「・・・・いいの?」



まさか、こんな展開になるとは思わなかった私は少し反応に遅れてしまう。
そんな私を見向きもしないで、タンスからごそごそと服を漁ってるは
「ぜんぜんいいよ、髑髏は服欲しがらないんだもの。これで済むなら面倒もない」
なんでもないように言った。(いつのまにかベッドの上いっぱいに服を広げてた)
そしてその中からどれがいいかと悩みながら服を引っ張り出していく。
すぐに決まったのか、服を数枚持って私のほうへきた。


「重ね着とか防寒以外でしないでしょ?」

「(コクッ)・・・本当にいいの?」

「いいっって。・・・じゃあこれにしよう。あ、サイズ大丈夫かな」



白色のTシャツ。真中には花や動物の絵が描かれていて、下はピンクのスカート。
少し長くなった髪は下ろされ、後ろで一つ結びに。
「うん、やっぱ髑髏は白とかピンクとか水色みたいな清潔感ある色がいい。シフォンスカートがいい味だしてる」
は全身鏡の前に私を立たせて、そう頷く。
確かに私もこのコーディネートは好き。サイズも丁度いい感じ。
そうくるくる回り、後ろ姿もきちんとチェックした私は
自分で思ってるより、この格好を気に入ってるみたい。たぶん、格好だけじゃなくて。
コーディネートしてくれたのがだから、この服ものだから。
だから、とても嬉しくなる。が私にしてくれたことだから。

鏡を見た自分の顔は、自分で思うほどとてもにこやかに笑っていて、
見た瞬間に少しだけ恥ずかしくなってしまった。
は私の姿を全部みていて、笑っていてくれる。
「気に入った?」
のその問いに私は恥ずかしさを誤魔化すため、勢いよく頷く。

「よし、じゃあ次。重ね着風Tシャツ。でも実はこれ1枚!」…―――







*








「・・・いいの?」

「いいんだって。ってかこっちこそいいの?」

「これは、大丈夫」



あれから数分後。の部屋の前。
いま私は、からもらった服計19枚を両手に抱えている。
こんなにもらっていいのかな・・。
そう訊くとは
「それ昔着てたやつだから、今着れないんだよね。だからこそ髑髏はピッタリだったし」
と言ってくれた。
それだけでも嬉し過ぎるのに、『部屋まで持っていく』なんてとんでもない。
これぐらいは自分でできるし、一人でも運べないことは決してない。
そう気遣ってくれてかれこれ数分。、心配しすぎ・・・。

「あのね、髑髏。遠慮することなんてないんだよ?」
「でもこれぐらい…」
「うんん、そっちじゃなくて」



「髑髏は私たちにとって必要な存在。骸さんに誓い合った同志。
 犬にはいまだ憎まれ口叩かれてるだろうけど、犬にとっても私にとっても
 もちろん千種や骸さんにとっても髑髏は大切な仲間なんだから。
 いつまでも遠慮してないで、少しぐらいわがまま言っていいんだよ
 手伝ってほしかったら言っていいんだよ」



少しぐらい・・・。
頭の中で反響したの言葉。
だったら、尚更これは自分で運びたい。

「ありがとう、。けれど、これくらいは自分でできるよ」
「・・・・そう」
「・・でも…」


もう少しのわがままが許されるなら。



「また、ここへ来てもいい・・?」



また、と一緒にここで話したい。

の目をまっすぐ見ながら言うと、
は一瞬だけ驚いた顔をしたあと、にっこり微笑んで私の頭を撫でた。

「大歓迎」







Venire

(ヒロインと髑髏に女の子をさせたかったんです)
2009.05.23