ボンゴレからの話に、クローム髑髏の身体を借りて牢獄から出てきた。
話は終わり、に会おうと黒曜ランドを歩いていくと
僕のお気に入りの部屋には千種がいた。
「っ骸様?!」
「千種、お久しぶりです」
にこやかに挨拶を交わしながらも、部屋を見わたし
(はいないか・・・)
のことを考える。
姿が確認できなくて、部屋を出ようとすると千種に止められる。
その千種の様子は、いつもと違って見えて
僕はのことが気になりながらも、少し時間を割くことにした。
「千種、そういえば少し前誕生日でしたね」
「・・・はい」
「とゆっくり過ごせたようで」
「・・・すいません」
クロームから、千種とがいたところを聞き今すぐ行って邪魔してやろうかとも思いましたが
力がなく、クロームにあとを任せたが
やはり・・・何を話していたか、気になりますね。
千種をジトリと見ながらそう言うと、
「俺も言おうとしていました」
と、静かに言う。
その眼鏡の奥の目は、言うのをためらうように揺らめいていて
僕は、その様子に、いまだ座ることも忘れて千種の話に耳を傾ける。
僕のお気に入りの、とても広いこの部屋。
元々ボロボロだったこの部屋は、ボンゴレとの戦いでさらに廃れているが
僕がよく座っていたソファは、変わらず綺麗にされて
ソファの手前にあるクッションの山には、最近使ったあとさえ残る。
いつも彼女をここへ座らせていた。僕の側へ置いていた。
すぐ近くに、すぐ触れられる。いつでも温もりを感じられる。
その時間はもうない。僕の指で、を触れられる時間は。
そのことに、誰よりも悲しんでいるのは僕ではなくなのだと、僕は充分にわかっているのに。
彼女を求めてしまう。自分の寂しさを埋めるために、彼女の気持ちを無視して。
いつのまにかジッと見ていた、の跡。
ようやく背後にいる千種から、ためらいの気配がなくなったと思えば、
千種はゆっくりと頭を下げた。
そんな千種を黙って見ていると、千種の声が小さく聞こえる。
「が、泣いています」
「はい?」
「骸さんを、感じられなくて」
側に居てあげてください。
あの、千種の誕生日。
は、泣いていたのだと。
僕を想って、泣いていたのだと。千種は言った。
僕が居なくて寂しいのだと。千種は言った。
(さすがにもう泣いていないだろうが)
千種とわかれて、を探す。
しかし驚いた。あのがそんなにも僕を想っていてくれてたなんて。(強がりな、彼女が・・・)
正直、嬉しくてしょうがないのだが、泣かせたという事実に罪悪感が気になってならない。
これからは無理に力を使ってでも、少しづつに会いに来よう。
ほんの少しでも、一秒でも長くと一緒にいよう。
そして、僕が居ないときでも、がわらえるように・・・。
胸にそう誓う。
の部屋の前へ着き、ドアを数回叩く。
あの僕のお気に入りの部屋に居なければ、大体は自室にいる。
そう思ってこの場所へ直行し、そして予想通り部屋からは彼女の気配を感じる。
返事を聞かずに、ドアを開けるとが見えたのだが
ベッドの上へ座るは俯いて顔を抑え、一瞬こちらを見た目からは、光るモノが零れおち…
「!?どどど、どうしたんですか!!」
「!?む、骸さん・・!?」
ベッドへ駆け寄り、の顔を覗き込もうとすると、の手に阻まれる。
「ちょ、見ないでください!」「何言ってるんですか、一体何が・・・」
布団で顔を覆うとするの手から、無理やり布団を奪い
しかしそれでも大人しくなるはずもないは、僕から逃げる。
それを追いかけ、広くもないベッドで鬼ごっこのように、逃げられ追い込む。
狭い空間で、それも男女の力の差は歴然としたもので
を捕まえ押し倒すと、はそれでも顔を見られるのが嫌なのか、僕の脇腹を蹴りだす。(ちょ、グフッ)
こういうときのは何故か強くて困る。それでもやっとのことでの顔を見られると
もうすでに泣き止んだのか、頬に小さく雫が残るだけで目は潤んではいなかった。(目尻の腫れは、見逃さなかった)
どうしたのか、何があったのか。聞きたいことは沢山あるが…
「・・・泣かないでください」
が泣いていたなんて、想像するだけで苦しかったのに
たった今、目の前で泣いているなんて。そんな事実には耐えられない。
自分が思うより、小さく苦しそうに歪んだ声でも、僕の下にいるには届いたのか
は、驚いたように目を張る。
しかし、その瞬間からまた潤み、震える目。
目の前のは、泣いてしまった。
すごく 苦しくて 僕も、泣いてしまいそうで。
僕の心の弱さを埋めたくて、の気をそらすように強くキスをする。
抱きしめて、また溢れだしたものを拭って、
けれど、どんなに拭えどまだ止まらない。そしてそれはより多くなっていく。
指先だけでなく、手の甲にも当たる雫に違和感を覚え、目を開くと
その甲の雫は降ってきていて
(あぁ・・・耐え切れていたと思っていたのに)
自分の目元から落ちていたのだ。
は目を閉じていてそのことに気づいていないのが救いか。
僕の雫はの目に落ち、のと共に流れていく。
「む、骸さん・・ん・・!」
苦しくなったのか、はそっと僕の肩を押す。
そのしぐさが可愛くて、キスをやめてに見惚れてしまう。
ゆっくりと開いていくの目。
さっきよりも潤んでいるその瞳は、熱っぽさも出していて
僕を惑わさせる。そんな気は、なかったのに。
しかし、の表情を見て我に返る。
「骸さん・・・どうして泣いて・・?」
熱っぽい瞳には困惑の色も宿していて、は僕に手を伸ばし、雫を拭う。
すっかり忘れていた。があまりにも、僕を惹きつけるから。
僕はと同じようにの雫を拭い、真剣に言う。
「が泣いていると、苦しいんです」
「骸さん・・・」
「、どうして泣いていたのですか」
今度はこちらが訊く番だと。拭う手を頬に沿え、逃げることは許さない。
しかしはそれを聞くと、顔を真っ赤に染め上げ「言えないです」とこの期に及んで言い張る。
ほう、そうですか。はもっと僕に酷いことされたいんですね。わかりました、その希望に応えてあげましょう。
の手首を上へ縛り、目隠ししようとすると
「ごめんなさい、言います」と震えて懇願されてしまう。
のアイマスクを投げ捨て、体勢を直す。
意を決したのか、は口を小さく開けて、聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「骸さんに・・・会いたくて」
「え?」
は真っ赤になって、精一杯に僕から顔を背けている。
はっきりと、聞こえた言葉に、絶句してしまう。予想していたことと違っていて。
そして、また、僕がを泣かせていたんだと、さっきより強い罪悪感が押し寄せる。
けれど、どうしてだか、僕の都合のいい頭は
のその震える言葉に、たまらなく嬉しさを感じてしまうのだ。
互いの頬に、雫がぽつぽつと残る。
再び流れる気配はなくて、その目元に残る光と赤い跡だけが、今までのことを映していた。
いま、僕にあるのは苦しくなるほどの喜び。
にあるのは、自惚れると僕と居る喜びと、のことなら羞恥心。
僕たちには、先ほどまでの悲しみの欠片もなかった。
少しして、小さく吹きだすと
そんな僕に気づいたも、染まった頬をそのままに微笑む。
「クフフフ」「ふふふふ」
囁くように笑いあう声は、二人を包んで。
やがて、自然に重なる唇。
「、これからはもっと一緒に居ましょう」
「・・・はい」