ついに代理戦争最終日。
復讐者との、決着の日。そんな大事な日の朝。
「なんでそんなこと言うんですか!!」
「ですから、こうして…」
私は骸さんとケンカしていた。
ケンカというより、私が一方的に怒ってるだけなんだけど。うん、我ながらなぜこうなったかな。
戦いに備え、ボンゴレたちと落ち合おうとみんなで支度を整えると、骸さんに話された。
「これからの戦いに、きっとは耐えられない」
みんなが傷ついていく様を、私は見ないほうがいいと、骸さんは言った。
つまりはいつもの留守番をしていろということなんだけど、先日連れて行ってくれると約束したからか、黙っておいていかないでこうして話してくれた骸さん。
その変化に、本当はちゃんとありがたく思って、その話に冷静に向き合わなきゃいけなかったんだろうけど…
骸さんの言葉に、『来ないほうがいい』と言われたみたいでショックをうけてしまった。
それが、自分でもびっくりするほど、心細く思えて、涙が出そうになってしまって、
そんなことで泣きだすのが嫌で、隠すように怒りで骸さんに当たってしまっていたのだった。うん、頭はこんな冷静なのにな。
「、落ち着いて」
「落ち着いてる、落ち着いてるよ」
私をなだめようとそばにきた千種にさえ、八つ当たりしてしまって、自分でもわけがわかんなくなる。
目の前の骸さんが、冷静に私を待ってくれてる。私また骸さんを困らせてる。
それが嫌で、この場に居たくなくて、
「骸さんのバカ!!」
ひどい捨て台詞を残して、黒曜から飛び出した。
*
子供か…っ。
すでにやってしまったこととはいえ、バカげたことをやらかして落ちこむ。
いやもうびっくりだよ。逆に、私がびっくりだよ。まだあんな子供じみたことできる純粋さが残ってたのね。
どこかもわからない河原で体育座りをしてる。あぁ風が気持ちよくて雲ひとつない晴天で、切ない。なんでこんなことしてるの。
(骸さんが私を思って言ってくれてるのはわかるけれど)
それでもやっと。10年近くかけてやっと連れていってくれると言ってくれた直後に、また留守番は耐えられなかった。
わかってる。骸さんは"選択肢"をくれたんだと。
連れていくことはできるけれど、その光景を目の当たりにして辛い思いをするのは私なのだと。気遣ってくれてたんだ。
代理戦争腕時計はおろか、普通の腕時計すら身につけてなかった私には、いまの時間を知るよしもない。
「ッはあー・・・・・」
深いため息をついてしまって、また落ちこむ。こんなことしたってしょうがないのだけれど。
早く帰って、ちゃんと謝って、さっさと解決すればいい。解決策は、至極単純であとは決行を残すのみ。
だけど、なんだかその一歩が踏み出せない。
あぁ、っていうかもう骸さんたちボンゴレのとこ行っちゃったんじゃないか。どこにボンゴレいるのか知らないな。
最悪すでに戦闘が始まってるかもしれない。・・・こうしちゃいられない。
まずはボンゴレたちがいるところを探さなきゃ。
帰ることを決心して立ち上がり、来た道を引き返そうと振り向くと、超至近距離で目の前に黒い人が立っていた。
「っ!!!!?」
「きみ・・・」
びっくりしすぎて後ろへ飛び退いた私は、自分が斜面の河原にいたことも忘れて
足元のバランスを失い、崩れかけた。
が、
ガシッ
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
目の前の人に正面から抱きとめ支えられ、なんとか転がり落ちるのを免れた。
腰を支えてもらってる体制のまま、しばらく見つめ合う。顔が近くて、私の視界はその人の顔で埋まる。
目の前のするどい眼光には、見覚えがあった。
「ひ、雲雀恭弥・・・」
いまだに身体を放さないで、見つめ続ける雲雀。な、なんでこんなところに・・・。
まあそれはきっとそっちもおんなじこと言いたいのだろうけれど。私正直迷子ですし。
いまだに、いまだに。何秒も動かない雲雀に、そろそろ自分から離れようと、彼の胸を押そうと手を伸ばすと
がちゃん
「え」
「やっと捕まえた」
え、なんだこれ。手錠かけられてる・・・? 捕まえた? Σ捕まったーー!!!
うそでしょ散々逃げ回って跳ね馬ディーノを犠牲にしてまで無事生き延びてたのに、こんなマヌケに捕まったの!?
とつぜん起こったことにまったくついていけず、そのまま雲雀にずるずる連行される。え、え、ちょ、どこ行くの。
「決まってるでしょ。六道骸のとこ」
あぁ、それは助かる。私も骸さんのとこ行きたかったけど、場所わからなかったから。っておい!ダメでしょ!
このまま骸さんとこ行ったって、人質として骸さんの足引っ張るだけじゃない!そうはさせるか!
抵抗しようと、引っ張られる腕と真逆の方向へ逃げようとする。
「この手錠、僕の武器でもあるんだけど、武器として使うときにはとげを出すこともできるよ」
・・・・・・・・・・ごめんなさい。
手首切られちゃ一貫の終わりなんで、しょうがなく従うことにした。骸さん、本当に迷惑かけっぱなしでごめんなさい。
とぼとぼ雲雀のあとをついていくこと数分。
なんの脈絡もなく、雲雀が私に問いかける。
「なんであそこに居たんだい」
あぁ、そりゃそうですよね。さっきみた標識によると、ここ並盛ですもんね。そらそうなります。
でもここにいた理由なんて、理由が理由なだけに言えるわけない。バカらしい。
しかしそんなここに行きついた根源を思いだして、これは使えそうだと判断し、素直に言うことにする。
「骸さんとケンカして。飛び出した」
「・・・は?」
「もう骸さんとはなんの関係もない他人になったの。連れてったって無駄よ。私は骸さんを怒らせたんだもの」
そう。いくら骸さんが優しくったって。今回はひどい。
こんな私に愛想つかせたっておかしくないんだから。
しかも出てった矢先にこうして敵対してる人に捕まっちゃうし、ホント使えない。今度こそ、捨てられたっておかしくない。
不仲状態になれば、もしかして雲雀も諦めてくれるかななんて少し思って話したけど。
あれ、なんだかそう言葉にして、なんだか本当にそうなのかもしれないと、思えてきてしまった。
そ、そっか・・・。ただ私は謝る謝らないばかり考えて、当たり前にみんなのいる場所へ戻れると思ってた。
骸さんに歯向かうってこういうことなんだ。もう、居られないかもしれない。許してもらえなかったら、捨てられるかもしれない。
「・・・ッ」
甘やかされて、わがままになっていた。
自分の言いたいこと全部言って、みんなと一緒に暮らしているのが当たり前で、愛し愛されているのが当たり前で。
子供だったなんて。私は、ずっと子供だ。すぐ、自分の気に食わないことに不満をぶつける。
もう二度と、みんなの元へ戻れないなんて 考えもしなかった。
骸さんとケンカしたとき、怒りでひっこめたはずの涙がまた流れ出そうになる。
目の前の雲雀にバレないように、うつむくけれど。そうすると余計目からこぼれおちそうになる。
手で拭きたいのに、いまだ手は拘束されたま、ま・・・で? あれ?
動かそうとしていた片手はなんなく自由に動かせ、いつの間にか手錠が解かれてる。
もう片手の手錠も、かちゃかちゃと音を立てて解こうとしている雲雀。
「僕はハンカチなんて持ってないし。泣いてる女を手錠つけて連れてる僕が、人目にどう映るかわかってる?」
手錠を外しおえると、つかつかと歩いていってしまう雲雀。ほ、本当に諦めてくれたのかこれは。
さっきの言葉から察するに、私が泣きそうになってるのに気付いて気遣ってくれたんだろうけど。
っていうかあなた、人目とか気にする人だったのね。たしかにその状況じゃ、危ない趣味してる人に見えなくもないけど。
「僕の並盛で、変な噂立てられてもおもしろくないからね」と前方を歩く雲雀が小さくこぼす。
それに続くように、少しずつ語りかけるように話してく雲雀。
「ぼくは、そうは思わないけど」
「え・・・?」
「きみが他人になって離れていったとしても、六道骸はどこまでもきみを追いかけてくるんじゃないの」
一歩もふり返らずにそのまま進んでいく雲雀。
手錠を外された場所で、そのまま動けずにいる私。開いた距離。
しかし開いた距離を物ともせず、言葉の衝撃は私へ伝わる。
「・・・そうかな」
もしそうだとしたら。嬉しい。
嬉しいと思うのはなぜだろう。この命、骸さんのために使うって決めたのに。
自分で戻る勇気がないから?骸さんが私を気にかけてくれるから?
ただ。単に、みんなのもとへ帰りたいからじゃないのか。
持っていたハンカチを目に押しあてる。目を覆う直前に見えた、手首についた手錠の痕。
またこんな痕作っちゃった・・・。骸さんに怒られる。骸さんはまだ、怒ってくれるかな。
あ、きっと手首じゃ自分で手当てできないから、千種に頼まなきゃ。千種にも「めんどい」って言われる。
犬にもなにかあったのかぎゃんぎゃん心配されるし、M.Mにいたってはちょっかい出されるし。フランにも変な言いがかりつけられそう。
あぁ落ち着いて話をきいてくれそうなの、髑髏しかいないな。
「なにしてるの」
だいぶ離れた前方からの声。
顔を上げると、雲雀が立ち止まってこっちに振り返っていた。
「行かないの?」
変わらない眼光は、真顔なのか、人を睨みつけているのかもわからない。
けれど止まった足は、私を待つように動かなくて。
その足が向かう先を、辿りつく先を知っている私は、この距離に届くように。少し声を大きめに返事をした。
「行く!」
駆けだすと、私が並ぶまでもなく歩きはじめた雲雀。
それに追いつこうと、さらにスピードを上げて走る。
(この人は、骸さんと同じ場所で戦ってる。同じ場所に並んでいる)
この背中と並べなきゃ、みんなと同じ世界にいれない。
みんなと同じ世界を見たいから。ちゃんと目の前の出来事に、向き合う。受け入れる。
私は私にできることをしなくちゃいけないんだ。骸さんに誓った命の限り。
みんなに会いたいから。
前の背中に並ぶと、隣りの人がほほ笑んだ気がした。
がちゃん
「え」
「人質なんだってこと、忘れないでね」
「え、ええええええええ!!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本当はみんなとのどうのこうの〜よりも
ただ雲雀さんと会わせたかっただけの話(爆
2013.09.13