代理戦争3日目を終えて、骸さんたちが帰ってきた。
骸さんと約束したあと、やっと自由の身になれた私は早速戦闘訓練を始めた。
みんな寝静まる時間。広い舞台があるホールで、身体を鍛える。戦闘の基本はまず体力だ。
普段激しい運動なんてまったくしないこの身体はちょっとした筋トレで、ぜえぜえ呼吸が乱れる。ちくしょう、ちょっとずつでも鍛えとけばよかった。
しばらくしてると、舞台から気配を感じ、いつから居たのかそこには骸さんがいた。
「骸さん・・・寝ないと」
「それはも同じでしょう」
「私はさっき寝ました」
部屋に帰る気はさらさらないらしい。
だいぶ疲れたことで呼吸を整えてると、骸さんは一回休憩にしようと私を手招きする。
それに素直に従って、舞台上にある一つのソファの骸さんの隣りに座る。
するとやっぱり当然のように骸さんは私を引き寄せて、ソファの上でくっつく。
ホントは汗だくだし、身体も熱いから離れようとしたけれど、そうはさせまいと骸さんの腕につかまる。
骸さんは私の腰と背中に腕を回すと、ポンポンと背中を軽く叩きはじめる。いつもの、あやしかただ。

結局逆らえずにそのままでいると、気分をよくしたのか、そのまま私の耳や首にキスしていく骸さん。
骸さんのその行為自体にはもう慣れてしまったけど、相変わらず心臓に悪いものだ。これは。
ってか私汗だくなんですって。骸さんが良くても私がイヤなんですよ。そこらへんの女心汲み取ってくださいよ。
「!? ちょ、骸さん!?」
「クッフフフフフ・・・」
すっと腰にまわしてた腕を寄せて、上半身の体重を私に預ける骸さん。
そうすると必然的に、私は後ろへ倒れてしまって、抱きついたままの骸さんもこちらへ倒れてくる。
え、ちょ、なにしようとしてるんですか。なんですかこれ。どいてください。
ソファに2人でなだれ込んで、ひっつく。私の顔を見ようとしたのか、距離は、むしろ離れたはずなのに。心臓のどきどきは、収まらない。(もちろん嫌な予感のどきどきだ)
骸さんの奇麗な顔の向こうには、高い天井と、舞台照明があって。もうどういう状況かだってわかってる。
私のその戸惑った反応が面白いのか、骸さんはしばらく私を眺めてて。一通り観察し終えたのか、ゆっくりと口の端をあげる。

「他の男の目に触れる前に・・・僕のものにしてしまおうかと」

その目は切なく怪しく揺れる。
あぁ・・・この目は、長年見てきた。人を操るときの目。なにも言えなくなってしまう目。
その奇麗すぎる目に魅了され・・・。いや、骸さんに魅了されてるんだ。
でも骸さん。聞いてください。一つおかしいんです。
骸さんのその目をみつめながら、訴える。



「私はもう、骸さんのものですよ」

「――っ」



私にとっては当たり前のこと。もうずっとそのつもりで生きてきた。
それなのに、そんな当然のことを聞いた骸さんは、その瞬間苦しそうに顔をゆがめ、苦しそうに訊く。
「僕のものならば・・・この先のことに、異存はないですね」
どうして、そんな苦しそうに訊くのですか。
まるで、私がうなずくのも抵抗するのも、許さないように。
どうしたらいいかわからなくて、ただ骸さんとみつめあう。
なにも返事しない私に耐えかねたのか、骸さんの手は私の手首をつかむ。
抵抗していた名残で骸さんに触れていた私の手を、優しく下ろしていく。
片手は手首を押しつけ、いつもの鎖のように縛りつけ。
片手は指をすくって指をからませ、優しく手を握る。
(骸さんの気持ちは、いまどっちなの)
静かに下りてきた唇は、目を閉じるのを促すように私のまぶたへ落ち
そのまま私が目を開かないのを確認したかのように一拍置いてから、再び唇が近づく気配。

けれど、近づいた気配はそれだけじゃなかった。



「骸、話が・・・・って、え!!?」



ホールへ降り立った気配が、私たちを捉えると、少し緊迫していた空気が動揺したのがわかる。
その動揺に我を取り戻して、その気配に向き直る。だ、だれ・・・!?
そこには知らない少年がいて、でも確かにこの少年は骸さんの名を呼んでいた。
骸さんの知り合いなんだろうか。ちらりと上にいる骸さんを見ると
「・・・・・・・」
あ、うそ。すっげえこわい顔してる。今まで一番ぶち切れてる。

よく見る犬や私たちに怒るときのような、目が充血したようなほほ笑みの怒りじゃない。
その口はまったく笑ってなく、その目は驚くほど冷たく、ゆっくりと。その少年に向けられる。
い、一般人になんて顔向けるの!そんな顔されたら、普通の人は逃げちゃうよ!
しかし私の予想とは反して、少年はビビりはしてるものの、まったく逃げようとしない。

「お、おまえ、何して・・・!ってか、彼女いたの!?」
「・・・・・・・・・・」
「ひっ!ご、ごめん!いやでも話があって!急ぎだからあの・・・!」

もうほぼ何言ってるかわからないくらいどもってる少年だけど、とりあえず骸さんに話があるらしい。
っていうか彼女じゃねえ。
とりあえず骸さんに起き上がるように促して、上体を起こす。
すると骸さんはなぜかこんな少年に見せつけるように、しっかりと私の腰を引き寄せ抱きなおす。(え・・・)
「なんの用でしょう。沢田綱吉。僕は忙しいんです」
骸さんの言葉に驚く。え・・・・・これがあのボンゴレ!!?
話にはきいてたけど、姿は一度も見たことなかった。な、なんて威厳のない・・・。
今まで想像していたような人物とまったく一致しなくて、戸惑う。あ、でも10年後でみた未来の彼の面影は少し・・・あるかな。
とりあえず詳しいことはあとで骸さんに訊くとして、いまは大人しくしてると2人の話が進む。



「みんなに話があるから集まってほしいんだ!協力してほしい!」

「ふざけないでください、そんな集まりに行くメリットがない。(を連れていくと約束した矢先に、そんな男だらけのところへ行く予定など作れるはずがない)」



なんでだろう・・・。ボンゴレの召集にそんなに拒否する理由もわからないけれど、なんとなく違うことで断ってる気がする。
それでも頼みこむ沢田綱吉は、まったく引きそうにない。これは行くというまで帰らない気だな。
あまりにも真剣に頼み込む姿がなんだか只事ではない気がして、ちょっと空気を読んで、小声で骸さんに提案してみる。
「あの・・・骸さんが忙しいなら私が行きますよ」
一人で行かせるなんてありえません、僕も行きます」
あ、そういうもんなのだろうか。まあ行くって言ってくれたしいいか。
とりあえず、盛大に溜息をつきながらでも骸さんの了承を得られた沢田綱吉は、「急ぐから」とさっさと行ってしまった。

再び訪れた静寂。骸さんと2人きり。
なんだかさっきのこともあって、変な空気である。
空気に耐えかね、そろそろ寝ようと提案すると
あっさりと骸さんは受け入れて、私の手を取りつかつかと歩き出す。(あれ・・・?)
なんかまた変なこと言われるかなと思ったのに、骸さんはなんだか疲れてるように見えて。
(でもよく考えたら、骸さん戦って傷だらけで。疲れてるよね)
そう思って、私もとくにつっこまず、お互いの寝室を目指して2人で歩く。



「(骸さんの役に立てるようにならなきゃ)」

「(これからが大変だ・・・)」


















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ツナとのファーストコンタクトはあっさりになってしまった。
さあこっから忙しいですよ。





2013.07.23