目が覚めたときには、すでに遅かった。
見事に骸さんの思惑にはめられ、これでもかと鎖につなげられ牢に閉じ込められてる。
助けを呼ぼうにもアジト内はもぬけの殻。このときすでに、みんな代理戦争に参加していた。

「・・・・むくろ・・さん」

あまりに。あまりに。
自分が情けなくて。力になれなくて。悔しくて。微塵も頼られなくて。
いつも足を引っ張って。置いてけぼり。安全なところで。なにもケガすることなく。
眠りにつく直前の景色に、ただあなたのシルエットがないだけ。それだけで、すべてを理解した。
天井まで伸びた鉄格子と電灯を見上げたまま。ベッドから微動だにしないで、涙が流れた。








*









真夜中に帰り、僕はこの暗いヘルシーランドを歩いていた。
日付がかわり早々に慌ただしく始まった3日目の代理戦争は、裏を返せば終えれば今日1日はなにも起こらないということ。
負傷した犬や千種を部屋に戻るように指示し、フランはM.Mに任せ、クローム用にと発明品を練り直しに研究室にこもったヴェルデを見送ったあと。
僕はやっと自室として使ってる部屋へいく。
本当は1秒でも早く向かいたかったが、誰にも邪魔されずに、ただ2人でいたかった。
うまくいけばまだ眠りの中であろう。しかし、あのがのうのうと眠りこけているとも思えない。そして大人しくしているとも。
一応今度こそ出られないように厳重に錠をかけてきたが、出ようと暴れて、身体に錠の跡が残ってないといいが・・・。
しかしそれらの僕の予想とは反して、部屋はいたって静かで。牢の中ベッドの上のの暴れた形跡すらない。
その様子を見て安心した。眠っていたか。心配ごとが消えて心が軽くなっていく。
愛しい彼女の寝顔を見ようと、あわよくば添い寝で自分も彼女のとなりへ横になろうとして近づいた。
が…

「・・・! ・・・?」
「・・・・・む、く・・・?」

ベッドへ横たわる彼女は、まるで衰弱しきったような顔で僕をみつめる。いや、みつけた。
焦点があってないようなその目は、まるで出逢ったばかりの彼女のような絶望を感じる目だった。
慌てて牢を解き、へ滑り込む。
一体僕がいない間なにがあったのか。誰かここを訪れたのだろうか。なにか酷いことをされたのか。
頭をよぎるいくつもの可能性は、尽きず思い当っていく。
しかし、どうしたのかと彼女に問いかける僕の言葉に、答えた彼女の言葉は、それらのどのパターンにも当てはまっていなかった。


「骸さん・・・もう行かないで」


そう呟いたの目は、その途端に生気を取り戻し。そして乾いた目は潤んでいき、涙があふれ出す。
その表情から、彼女がこうなった原因を理解した。
悲しみにうちひしがれ絶望を感じていたのは――僕が原因だったと。
短時間でこんなに衰弱してしまうほど、彼女は苦しんでたのか。僕の、この行動に。
の愛しい笑顔がそこになく、僕は涙の止まらない彼女をそっと抱きしめる。
それでも、やはりをあの場所に。戦場につれていくのは賢い判断ではなかったと思う。
危険なのはもちろん。他の男と接触させたくないのはもちろん。
傷ついていく僕たちを見て、はきっと尋常じゃいられない。その心は、今よりもっと傷ついていく。
それが何よりも避けたいことだった。に、これ以上この世の汚いものを見せなくなかった。

に、はじめて僕の心情を話す。を、閉じ込めていた理由を。
すっかり生気を取り戻し、涙も収まってきたはなにか考えるように、掴んでいた僕の服をもっと強く握る。
はきっと、僕がこう思っていたことなど考えもしなかったろう。
は人の考えを読み取るのが苦手だ。それは何年の付き合いがある僕たちにでも。
もともと狭い世界で生活させ、人と接触させないようにしてきたは、他人自体にも興味がない。
だから、自分の考えは強いが、人の考えにとても鈍感だった。いまも昔も10年後も。
狭い世界で生きてきたから、その狭い中にいる仲間たちがなお大切なのだろう。
その仲間たちが傷つくのを、彼女はきっと耐えられない。割り切れない。だから危ない。

危ないというのに、彼女は・・・は。もう一度手を握りなおし、僕へみつめる。
僕を見上げる彼女の目は、まだ溜まってた涙のせいか、電灯からの光が反射してきらきらと輝いていて
覚悟した顔は、とても奇麗(うつく)しかった。


「それでも・・・私は骸さんたちと。みんなと同じ世界が見たいです。仲間と同じ世界にいたいです。
 もうどこにも置いてかないで・・・ちゃんと連れてってください」


僕らを想う。それはとても不思議なもので。
幾重にも助けられ、癒された。がいたから、僕もまだ人の心を失わずにいたのだと思う。
でも、それはもしかしたら、こうして閉じ込めて。汚いものを避け。守っていってできた力なら。
これから壊されてしまうかもしれない。その、僕らを想う力が失われてしまうのかもしれない。
だけど、それでも。それでも"お前"が僕たちと共に居るというのならば。



「。・・・もう置いていったりしません。ずっとついてきてくれますか?」

「!! ―もちろんですっ!」



ずっと共に居よう。
たとえ汚いものがお前を襲おうとも。見せたくない世界が目の前に迫ろうとも。
必ず僕が。いや、僕らが守ろう。仲間である、僕らが。
「必ずを守ります」

もう一人にはしない。

















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物語的展開はないけれど、次回ついに外出許可が。やったね!
最終戦、最後の最後でちゃんとひっついていきます。




2013.07.22