作戦会議が終わったのか、みんないつもの部屋へ戻ってきた。
結局骸さんになだめられた私は、相変わらず戦力に入れられないままでいる。
(私・・・思えば、なにかと留守番やら仲間外れが多いぞ・・・!?)
2日目の戦闘を終え、また傷を増やして帰ってきたみんなの治療を再開する。
そりゃ私は戦力外なことはわかってるし、情けないことにこのフランの足元にも及ばない。
目の前で気持ち良さそうに目をつむって、大人しく私の手当てをうけてるフランを見る。
こうしてるとただの子供なのに。まあ口を開けば大人をもイラつかせる口八丁だが。
いざ命を懸けた場面で・・・この子に守られてしまうのかと。わかってたけど、やっぱり納得なんてできない。
だいたい10年後でみた未来での私の能力が、今現在じわじわと自覚してる私を、骸さんは気付いてるだろう。
あれのおかげで骸さんの鳥かごから出られたんだし。未来の記憶を手に入れる前はまったくそんなことなかったけど。
まだ安定はしていないこの能力だけど、これだって使いようによっては戦力になるし、いい加減私を戦力として数えてほしい。
前だってボンゴレ10代目に宣戦布告しにみんなで行ったときも、私だけ留守番だし。もう留守番なんて何回もやってるけどさ!
「さん、そんな怖い顔しながら手当てしないでくださいよー」
「え、あ、ごめん」
いつの間にかフランの火傷跡が近いと思ったら、私に抱きついてたこの子。
知らずに眉間にしわを寄せてたらしい。抱きつきながら自分の眉間を指で寄せるフランは、私の頭上から三叉槍に頭を貫かれた。
私の身体はすぐに後ろへひっぱられ、同時に慣れた居心地のいい腕に包まれる。
「ごめんじゃないです、どうしてフランは良くて僕は胸に顔を寄せるのダメなんですか」
「え、いや当たり前ですけど」
この人も相変わらず何を言ってるんだ感が半端ないけど。いやフランもダメですけどね。(いつの間にかなってたんです)
骸さんの手当てもしようと、ふり返って骸さんの頬に手を伸ばすも、何を思ったのかその手にキスする骸さん。
「!!??」「の手を、血で汚したくないんです」「うーわー。さっきからセクハラ連発だよこの人」
フランの上から"1t"と書かれた鉄の塊が落ちてきた。フランも学習しようよ・・・。
それに犬が加わって、骸さんとタッグでギャーギャーフランを苛めるも、フランはヴェルデに似せた人形を盾代わりにして騒いでる。
「・・・・千種?」
「・・っ、あ」
なんだか千種が熱心にこっちを見てくるもんだから、声かけたら
何かに気付いたように一瞬にして顔を赤くさせ、そっぽを向く千種。
「・・・なに?」「べつに」「うそ」「なんにもないよ」
千種を追いかけてその顔を覗こうとするも、そのたび避けられる。(む・・・)
その私たち2人の様子をにやにや見ていたM.Mが、またにやにや嬉しそ〜うに千種を見る。
「アンタが骸ちゃんとイチャついてんのが面白くないんでしょ〜?」
「は?」
「っ・・・・」
見たことないくらい目力強くしてM.Mを睨みつける千種は、やっぱり頬が少し赤かった。
よくわからないけど、千種の手当てもあるからその傷に触れそうとすると、M.Mのことで気を悪くしたのかそのまま私から離れてく千種。
代わりにM.Mが私へ寄って、また楽しそうに耳打ちをする。
「アンタ、柿ピーにしとけば?」「なにが」「え、アンタわかんないの?バカ?」「ハァァ…?」
なんで急にバカ呼ばわりされなきゃいけないんだ。少なくともM.Mよりは頭はいいつもりだ。たぶん。
なんとなくM.Mの話で、彼女は私と千種をくっつけたいことはわかった。まああなた骸さん狙いですものね。
そういうのはぶっちゃけどうでもいいけど・・・いやでもなんとなく骸さんとM.Mがくっつくのは複雑だな。
少し考えた結果、私はピコーンとひらめく。
「そんなあなたにぴったりの人がいます。顔もよく、みんなのボスで権力もあり、何より大金持ち!」
「え!? ダレダレ、教えなさいよその大金持ち!!」
「白蘭」
「いらないわよ」
なんだ。せっかくとってもいいこと思いついたと思ったのに。
どうやら性格のタイプも一応意識してるらしい彼女は、白蘭を任されてはくれなかった。
結局少ししかみんなの手当てができないまま、夜も更けてく。
そろそろ夕飯の支度でもしてこようかと思うころ、とつぜん不穏な空気が、殺気が流れる。
「何で今こいつが現れるびょん!!」
真っ先に炎の前へ出る骸さん千種、犬の3人。
そこから現れた復讐者から、容赦なく繰り出される鎖の攻撃。
攻撃をうまくかわす中、3人のやりとりが聞こえる。
「ここは僕に任せなさい」
「っ!!?? 骸さん!?」
こんなときに、何を言ってるの。
瞬間的に甦る、復讐者の牢獄からの脱獄。その失敗。大事な人を連れていかれる恐怖。
絶対に、絶対に。今度こそ置いてったりしない。そう、みんなそう思ってるはずなのに。
骸さんとの少しの会話を終えた千種と犬は、私のほうへ走りだす。
「っ!!! は、放して!!下ろして!!」
「ダメだ」
「お前を連れてけって、骸さんに頼まれたびょん!!」
「そんなのっ・・・! イヤ、骸さん!!!」
骸さんイヤ・・・! 私は、もう繰り返したくない!!また、私のせいであなたを、あなただけは失いたくない!!
戻りたくても、抱え上げられてるせいで地面にすら足がついていなく、力は空回りするだけ。
2人が建物から跳び下りる直前、最後に見た景色は話しをしているフランと骸さんと
その骸さんの頭を、握り掴んでいる復讐者の姿だった。
「骸さああああああん!!!」
*
アジトを離れてから数分。
騒ぎが静まったのを確認して、私たちは帰ってきた。
千種がそっと骸さんの部屋を見る。M.Mがガムテープを張る。犬が俵持ちする。私がうなる。
「んーー!!んんんー!」「いい加減大人しくするびょん!!」「ホントうるさいわよ!」
骸さんが無事かどうかもわからないのに大人しくなんてしてられるはずもなく。
両手首を後ろで縛られ口をガムテープで塞がれ、犬に俵持ちで抱えられ私は帰還した。
もう私のことはいっそどうでもいいから、早く骸さんの姿を探しに行けよ!!早く、早く顔が見たい。どうか無事でいてほしい。どうか行かないでいて・・・!
満足に酸素も吸えないガムテープのなか、うめき続けてたせいか苦しくて、涙がにじみ出る。
そっと様子をうかがってた千種が、「ヴェルデ!」と叫ぶと建物内へさっさと入ってく。
「っ!骸ちゃんも!」
「骸さぁ〜ん!無事だったんれすね!」
「ん!? (え、ちょ、待…)」
犬が骸さんたちがいるであろうほうへ向かうと、とうぜん犬に抱えられてた私は床へバンと叩きつけられた。(犬んんんんんッ!!!)
痛いももちろんあるけれど、見捨てられたもあるけれど、あんたらなに我先にと骸さんとこに駆け寄っちゃってるわけ!!?
どうにか縛られてなかった足で上体だけ起こすと、真後ろから黒い殺気が。(・・・ん?)
「犬・・・これは僕のにどういった遊びをしていたのでしょう」
あ、ちっさく犬の悲鳴がきこえた。
その声が、愛しい声が真後ろでしゃがみこむ気配に反射的にふり返ると、そこには・・・居てほしかった人の顔があった。
「むくろ・・・さん」
「・・・・なんて顔してるんですか」
すっと取ってくれた口のガムテープに、背中側に縛られた手も解こうと、骸さんの腕に包まれる。
至近距離で再会したその顔があまりに優しくて。
手首が自由になった瞬間、その人が現実であるか確かめるように私は抱きついた。
「骸さぁぁん・・・っ!」
「っ! おやおや、どうしたんですか?らしくない」
そうでしょう。らしくなんていられるはずもない。
確かに普段滅多に泣いたりしないし、自分から人に抱きつくなんて絶対しない私だけど
最悪の展開を予想して、心から居てほしいと願った人が目の前にいてくれたら。もうなにもいらない。それはもうプライドもらしさも必要ない。
そんなことどうだっていい。あなたが、あなたが…
「無事でよかったっ、ぁ・・・!」
骸さんにしがみついて泣きじゃくりながら、嗚咽がひどいなかの言葉は聞き取り辛かったかもしれない。
けれど、その言葉に反応した骸さんは。口の端についた血も気にせずに、奇麗(うつく)しくほほ笑む。
*
「まったく。を血で汚したくないと言ったというのに」
「それはあの・・・すみません」
泣きじゃくる私が落ち着くまで、そのままにしててくれた骸さん。
しゃっくりが落ち着いてから、冷静にふり返ると死にたくなる。あぁ・・・私なんであんなみっともない姿・・・。
幸いフランはそのときから気絶してたものの、一番見られたくないような人には見られなかったけど。
それでも、あぁ、長年付き合ってたみんなにあんな姿、あぁ・・・。
骸さんの肩を手当てしながら、頭を打ちつけたくなる。
骸さんの大きなケガはこの一か所くらいで済んだものの、ケガに遠慮なく抱きついた私にこれは絶対痛かったであろうに。骸さんはなにも言わない。
また、そうやって優しくする・・・。あなたが優しすぎて、私はいつもみじめになる。
包帯を巻き終え、服を着る骸さんをみつめてると、骸さんは当たり前のように私を抱き寄せる。
「またの服、買いに行きましょうか」
「・・・ごめんなさい」
抱きついて、見事に移った血の跡。骸さんの血が染みついた私の服は、大変グロテスクである。
また骸さんに変に気を遣ってもらって。もうどっちが世話されてんだか。
この腕に包まれる居心地に勝るものはない。私の居場所と、心から感じられる場所。
骸さんは普段からスキンシップは多いほうだけど、
よく。千種や犬たちがいないときにこうしてくれた。寂しさを軽減させるように。
あの1回目の復讐者の牢獄へ投獄されるときも、復讐者になりすます作戦で別れる前にこうして…
(―別れる前にこうして・・?)
安心して気が抜けたからなのか。骸さんの腕の中が居心地良すぎたのか。
ふわりとした眠気に襲われたと思ったら、後ろへ倒れてく私の身体。ぽふっと柔らかな羽毛布団の感触。
それと首や胴体や足ところどころに窮屈な鉄の感触。そして鎖の音。
鉄格子が天井へ伸びたと思ったら、逆光でシルエットしか見えない骸さん。
「ここから先は・・・きっとあなたは耐えられない」
最後に聞こえた骸さんの言葉の真意もわからず
私はそのまま、意識をおとしていった。
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丸1年ぶりの黒曜の続き。完結ももうすぐ。
原作沿いが終えたら、それぞれのルートや過ごし方を書きたいなと思ってます。
黒曜は大好きなので、終わっても冷めないものですね。
タブのタイトルの、愛し合うあまり生じる矛盾・・・を感じとってもらえると嬉しいです。
2013.07.22