「ねぇスマイル」

「うん?」


スマの歌を聞かせて。



そう言われて、少し苦笑した顔をすぐ戻す。
「♪ギャンブラー…ゼェェット!!「違くて」

手に持っていたギターでジャカジャンッと弾いて歌ってみせたものの
結果、は『やっぱり…』と言うような顔をするだけで終わった。
まぁ僕自身もわかってたけどね。そういうことじゃないのは。
だって僕たちは長い付き合い。君が幼いころからずっと一緒だった。
この城で、唯一の人間の君は、十数年前やってきた。

そんな幼い君を育てた僕に、君の気持ちがわからない訳がない。

「私どっちかといえば、アッシュに育てられたんだけど」
「僕やユーリだって、いっぱいお世話したよ?」
にとってはアッスくんがママで、ユーリがパパで、僕がお兄ちゃんなんだろう。
アッスくんは付きっきりでお世話してたからなぁ。うざいくらい。



「珍しいね。スマがリビングで書いてるの」

「うん。気分がね、ここだった」



僕は目の前のローテーブルに置いた鉛筆をとって
今までのメモを全て裏っ反しにして、その一番上の紙に『ひ み つ ★』と書いた。
それを見ていたは僕が秘密と書いたにも関わらず、裏反して見ようとするから
それに伸ばした腕を引っ張って、自分ごとソファへ埋めた。

「ケチー」「ちゃんはひらがなが読めないのかな?」
イタズラはダメだよ、と。僕の下へ引き込んだを見おろしながら優しく言う。
そうすればこのやんちゃなお姫様は、ぷくっと膨れて僕を見上げるものだから
ホント・・・僕がイタズラしたいくらい可愛い。

と、構ってあげたいのは山々なんだけど、気分屋の僕だからね。
「書けるうちに書いちゃいたいんだ」と、の目に手から包帯を巻きつけて見えなくした。
その間一切抵抗しないこの子は、本当に危ないねェ・・・。いつか食べられちゃうよ。
僕は今までずっと一緒にいた“家族”だからね。危機感もなにもないのはわかるけれど。

「これでいいから、ここに居ていい?」
「・・・・あんまり話せないよ」
「それでもいい」

ついでにの手首まで縛ってる僕に、何もつっこまないのは興味がないのかな?
それとも誘ってるのか、なにか他のこと考えちゃってるか。
「・・・・何年も一緒にいたけれど、スマの詩考えてる姿なんて見たことない」
どうやら一番最後だったみたい。そんなに僕のこと考えてくれてたなんて嬉しいな。
そう思いながらも、(いつもは暗い人気のない場所でやるからね)と心の中で答える。
だってそれを言ったら、これからならきっと僕を探し出す。見つけ出す。
それはちょっと困るんだよね。
詩を考えてるフリをして黙って、の話もきく。

「スマの生の仕事姿、見たことない。いつもテレビの中」

こんなに近くにいるのに。
テレビに映ってるあなたは、まるで別人で。
私の知ってるあなたはお兄ちゃんで、いつもヘラヘラ笑ってて

でもテレビの世界では、とっても輝いてて
クールでかっこよくて、なかなか笑わない人。でもそれがまたかっこいい。

「かっこいいから――・・生でも見たいのに」

独りが喋っているのに対して、僕はだんまり。
ひたすら詩を、止めることなく書く。メモはもうびっしり埋まってる。
その後も「テレビの編集がいいのかなぁ。スマってテレビのほうがかっこいい?」とか
結構傷つくようなことも言われながら、けれど僕はいくら顔を引きつっても君にはバレない。
悪戯(いたずら)したいけれど、あえて放置。だんまりを決め込む。

だって、いま僕は。
いまの君への気持ちを、この歌に書いてるから。
いつもは話して解放する思いも、いまはこの(うた)に綴ってるから。

へ言いたいことも全部口で言わず、そのまま書く僕。
うん、君のおかげで一・ニ曲分すらすら書けるよ。良くも悪くも。

そうしていく内にぴたりと止まるのおしゃべり。
不思議に思ってを見るも、僕が巻いた包帯はそのままで
当然表情を見ることなんてできない。

「・・・なんで、見られたくないの?」

声色は、ずいぶん寂しいものだった。



僕は数秒経って、えんぴつを置いて。代わりにギターを手にとって。
メモは忘れずにまた裏っ反して、座った状態のまま・・・歌う。


「――君の考えることは いつもお見通しさ」

「っ!・・・・スマ?」

「だって僕は透明人間 君のことも透かしてる」


突然歌い始めた僕に、は戸惑っていたけれど
僕の名前を一回呼んだだけで、それ以上は何も言わなかった。

君は自由で まるでどっかのお城の女王様みたい
パパに似たのかもね その横暴ぶり 君には逆らえないよ
だから僕は 闇に隠れてひっそりこっそり 歌うよ

“イメージ”と“世間の声”で塗られた 嘘の僕
君には見せたくないよ 今の僕を見て
オシゴトの唄と 僕の心は一致しない
“イメージ”と“世間の声”で塗られた 嘘の思い
君まで それを求めてるでしょ?

君に届かないように
いまの僕といて



「・・・いま書いたやつ?スマにしては甘々で下手な…」
「いや。バージョンに変えたやつだよ」
いまのメロディに、さっき書いたやつ乗せよっかなって。

そう言うと、身体全体を僕から背けて口を突き出す仕種をみせる。
「なんでいま書いたやつにしないのよ、なに私バージョンって」
ちっちゃい声でぶつぶつ言いながらゴロゴロするに、ポンと手を乗せ
もう片手はメモをまとめギターを持つ。

「はい、終了。撤収」
「撤収って・・・これ外してよ!」
「ユーリにこれ見せなきゃいけないから僕は忙しいんだぁ、あは。ゴメンね☆」

抵抗し始めたは、やっと足にもかかっていた包帯の錠に気づいたみたいで
さっきよりもゴロゴロとソファで転がってる姿を見ながら
僕はをそのまま置いて、ユーリのもとへ行く。

「テレビの編集じゃなくて、僕の実力だよ」
「!スマ、根にもって…」
「ぼ〜くを見定めるのは、10年早いよ」










「・・・・・・・・・」

「どう?今回の」

「・・・・・・・・・」

「アレ?ユーリ顔が青いよ。ものすごく」

「・・・これはお前が書いたものか?」

「そうだよ。正真正銘、僕」

「ふざけるな、こんなもの出せるか」



あ〜ぁ。やっぱりダメだったか。
ユーリの机には、いまさっき僕が彼に渡した紙数枚。
その内の一枚をもったユーリはいまにもブチ切れそう。
いつもの10倍も早いスピードで出来上がった僕の曲に、初めからユーリは疑ってたけれど
予想以上のものだったのか。彼の身体は震えてる。

震えるほど怒ってるのか、甘い詩なのか、それを書いた僕が信じられないのか。
たぶん全部。もう何も言えないって感じ。
「いい加減、こういうの出したいよ1曲くらい」
「アッシュのベタで甘々な歌詞が伝染ったか」
「アッスくんほどじゃないでしょ」
でもそれは僕の本当の気持ちなんだ。それがいい。



「本当の僕で、かっこいい姿を。に見てもらいたいんだ」

「見せるなら、前までのほうがいいと思うが?」

「本当の僕って。言ってるじゃん」



ユーリはとっても不可解って顔で僕を見る。
手を頭にあてて呆れてるようにみせるユーリは、ちょっと意地悪だと思う。
ユーリものこと大切なのはわかるけれど、そんな理由で止めないでほしいよ。
まぁだからってユーリが甘々の詩歌って、に見てもらっちゃ僕も困るけれど。

「大体なんだ。“君に届くな”だとか“僕と居て”なんてお前らしくない」
「・・・・わかったよぅ、作り直すよ」

今回も僕が折れて、この件はなかったことになる。

いいもん、今回はの前で歌えたから。
ちゃんと本当の気持ち、の前で言えたから。
・・・・でもちゃんと聞いててくれてたかな。
その後の反応みるとあんまり聞いてないような気もする。
かっこいい姿、見せられたのかな。





(あ、失敗した。包帯巻かなきゃよかった)












song for you

2010.04.10