「んんー❤ฺレオンさんの料理は本当においしいっ!」
そう遠くのお嬢様は言った。
彼女の居る場所は、彼女の自室と繋がる2階のバルコニー。私はそのバルコニーと繋がる階段の下、庭園に居た。
見上げる彼女の声はよく聞こえなかったが、
お嬢様へ近づいてよく耳をすませれば、そう聞き取れた。
おかしい。
いまは午後2時。午後のティータイムは3時だ。
この時間に、俺はなにか料理を出した覚えがない。
「お嬢様。一体いつの、なにを食べてらっしゃるのですか」
「うーん❤ฺ昨日のアップルパイ☆」
一気に階段を駆け上り、それに蓋を被せる。
「あぁー!!」
「お嬢様いけません。はしたない」
「れ、レオンさん・・・」
お嬢様はいかにもギクッとしたような表情で、私を見る。
「レオンさんだったの・・」
「一般兵やメイドには、餌付けしていたようですね」
ギロッと外にいる一般兵やメイドを睨むと、一人残らず俺から目を逸らす。
まったくあなたって人は・・・。
蓋をしたアップルパイの皿を下げようと、持ち上げると
「まま、待って!」と皿ごと俺に抱きつくお嬢様。
「れ、レオンさんの料理、食べたいなぁ〜?(キラキラ)」
「(うっ・・・)」
輝かしい目で言われてしまえば、もう何も言えない。
「新しくお作りします」「や、そのアップルパイがいい!」
充分おいしいって、と言ってくれるあなたに
やっぱり俺は甘くなってしまうのだ。
仕方なく、また皿をテーブルへ置き蓋を上げる。
その瞬間から、お嬢様は勢いよくパイを掴み取り口いっぱいに頬張る。
「おーいーしぃぃ❤ฺ❤ฺ」
「お褒めに預かり、光栄です」
「1日経ってこの美味しさ!もうレオンさん、良いお嫁さんになれるよ」
ニコニコ満開の笑顔で食べるお嬢様を見ていると、こっちまで得した気分になる。
と、お嬢様の言葉に反応する。
お嫁さんって・・・そもそも俺は男なのだが。
そう思っている俺を置いて、お嬢様はずかずかと言っていく。
「料理上手で、ヴァイリンガルだし。レオンさんをお嫁にもらう人は幸せだ」
と。
まったくこの人は・・・。デリカシーがないというか、好き放題言うというか。
そんなお嬢様に対抗するように、俺は言う
「俺は、お嬢様以外の方に料理を作ったり尽くすつもりはありませんが」
そう言いながら空になったティーカップへ紅茶を注ぐ。
ちらりとお嬢様を見れば、ぽかんとしたような顔からにやりと笑う顔が見えた。(あ、やばいな)
「じゃあ私のお嫁さんにこなきゃ、レオンさんはいいお嫁さんになれないわけだ」
サディスト魂にスイッチが入ったお嬢様に怯みそうもなるも、
そこは執事として、男として踏みとどまる。
むしろ巻き返す勢いで、テーブルに片手をつきお嬢様の顔へ急接近して。
「さっきから聞いていれば。俺のお嫁様にくるのはあなたですよ?様」
そう真剣な眼差しで言う。
しかし、こっちがこんなにも真剣に見つめてるというのに
このお嬢様はケロッとした顔で、こう言うんだ。
知ってるよ
2010.05.13(なにこの甘々_| ̄|●)