『犬、お誕生日おめでとうございます』
『骸さん・・!』
「骸さん大好きれすーー!!」ガバッ
ガン
「・・・・・」
「うるさい・・犬」
「・・・・・・・・・・」
Happy Birthday 犬!!
んなろう、柿ピーのやつ・・!
着替えたあとヘルシーランドを歩いて、横の壁を蹴り壊した犬。
柿ピーに投げられて、ヨーヨーが当たった頭をさすりながら進んで行きます。
不機嫌なようす。それもそうです。素敵な夢から暴力で起こされたのですから。
しかし、素敵な夢のことを思い出し、彼は再び上機嫌になりました。
今日はいいこと起こる気がするびょん!骸さんに会えるかもしれな…
「あ、犬・・」
「・・・なんでお前なんかに会わなきゃなんねーんだびょん!」
一瞬で再び不機嫌になりました。
彼の目の前のクローム髑髏は、なんのことかと目をぱっちり開いてます。
「どうして急に怒るの?」
「うっせー!いつもテメーには怒ってんだろが!」
「・・・嬉しそうだった」
「うっせーうっせーびょん!見てんじゃねーよ!」
犬はクローム髑髏から離れていきます。
クローム髑髏は彼を追わず、小首を傾げて見送りしてました。
柿ピーには投げられっし、アイツには会うし・・・最悪だびょん!
また壁を蹴り壊し、進んで行きます。
ふと、また素敵な夢を思い出します。
犬の命の恩人であり、憧れである彼。彼が自分の誕生日を祝ってくれた夢。
少し犬は考えます。
今日の夢は正夢かもと思っていましたが、むしろ夢を通して彼が来てくれたのかもしれない!と。
憧れの彼、骸には特殊能力があり、自分と契約した者とのテレパシーが自由にできる。
彼は本当にきてくれたのかもしれない!大好きな彼に会えたのだ!
犬は嬉しくなり、叫びます。
「っ〜〜!骸さん最高らびょーーん!!」
「何コレ、骸さん狂信者?」
「ギャあッッ!!?」
犬の後ろにがいました。
気配もなく接近していた彼女に、犬は驚きを隠せません。
「いつから居たびょん!悪趣味びょんっ!」
「カベ蹴り壊した少し前から?アンタ無意味に壊すなよ」
「う、うっせーびょん!」
犬は素直に自分の過ちを認めませんが、反抗もしません。
何故なら彼は今まで一度だって彼女に勝ったことはありませんから。それこそ無意味な抵抗です。
彼女には逆らえないことを(長年かけてやっと)学習したのです。
彼が少しの間に怯んでいるとは「これ以上壊してどうする気」と言います。
容赦ないこの言葉に犬はまたしても怯み、または「骸さんの隠れ家、潰す気?」と言い咎めます。
これにはさすがの犬も「ごめんびょん・・」と謝ります。
「そこら壊すのやめてよ。髑髏が可哀そうじゃん」
「(・・・・)」
「ピンが壊れたからってペットボトルでボウリングすんのもやめて。水跳ねてカビ生える」
「ピンがモロイんだびょん・・」
「力強くしすぎで投げたんでしょ。それボウリングじゃない」
「・・・・モロイんだびょーーん!!」
犬はどうしても口で勝てないとき、悔しさを天に投げ飛ばすように叫びます。
千種は犬が反論しても「・・めんどい」とすぐに諦めるので、こうなりませんが
相手には、叱るように次々と返してくるのでこうなります。
犬はまた「うるさい」と返され、もう叫ぶ気力もなくなったようです。
そんながっくりした犬の手を、は引っ張っていきます。
「・・?どこ行くんだびょん?」
「犬と千種の部屋」
犬はなんのことかわからず質問しようにも、はさっさと進んで質問できる状況ではありません。
結果、黙ってついていくことになりました。
部屋につくと千種が居ました。
「・・何してんの」
「犬、今から寝るから」
「はぁ?!」
何故、勝手に自分は寝ることになってるんだ。と犬は思います。
しかし言うより先に、に自分のベッドへと押し倒されてしまいました。
は犬へ布団をかけてあげるとベッドの端に座りました。
やっとのことで「何してんだびょん!説明しろ!」と犬は言います。
千種もわけがわからない、という顔をしているのをみてはやっと言いました。
「だってアンタ、今日誕生日でしょ」
「そうらけど、どうゆう関係が」
「・・・あぁ、そうなんだ」
「って柿ピー、覚えてろよっ!!」
犬はひとまずつっこみ、またを見ます。
は一息ついてから言います。
「骸さんに会えるかもでしょ。少しでも負担のない精神世界でなら会えるかもしれない」
髑髏みたいな才能ないから、それも無理かもだけど。と付け足して。
あぁ・・じゃあは始めから、オレの誕生日って知ってて骸さんと会わせようとしてたんか。
犬はやっとすべてわかりました。
「じゃあおやすみー」
ポンと頭に手を置かれ、布団をかけ直す。
犬は途端に眠くなり、の言うとおりに寝始めます。
ヴヴン・・――
気づいたときに居た、ココ。
暗い空間。以前見たことのある、足場が浸水している真っ黒の場所。
その景色は一瞬にして、見慣れた場所へと変わった。
そこは今まで自分のいた、寝室だった。
一瞬夢が覚めたのかと思ったが、寝る前までいた千種やはいない。
何より、さっきの景色には見覚えがある。
クローム髑髏の家に入ったときの景色。精神世界だった。
「・・・骸さん!」
犬は走り出し、急いで心当たりのある部屋へと目指して行く。
骸の気に入っていた部屋へと、そこへ。
目的の場所のドアを見つけ、荒々しく開ける犬。
そこには・・・が居た。
「、?骸さんどこだびょん!!」
「・・・・・」
犬はまだ気づいてない。それもそうだろう。
はこの部屋にはしょっちゅう居た。骸と共に居たときも、骸の居ない今も。
この部屋に彼女が居ることは不思議じゃなく、違和感なんてものはなかった。
「なんで黙ってんだびょん、早く…」
「・・・・クッフフ」
に掴みかかろうとした犬の動きが止まる。
彼女の右目には・・『六』の文字が書いてあったから。
そう気づいた途端に彼女は笑う。骸の声、笑い方で。
「犬もまだまだですね」
霧が彼女を包み、その姿は六道骸へと変わった。
「骸さ・・ん」
「如何なるときも油断してはいけませんよ。もしこれが…」
「骸さーーんッッ!!!」
ガバッと骸に抱きつく犬。骸はよろめきながらも抱きとめた。
「骸さん、会いたかったれすーーー!」
「おやおや、まだ説教しようと思っていたのに・・・」
微笑みながら、犬の頭を撫でる骸。犬はさらに抱きしめる力を強くする。
うれしくて、うれしくて、
夢でも、精神世界でも、
骸に逢えたことが、犬はとっても幸せだった。
いくら骸の言葉でも流してまで、犬はひたすら骸に抱きついていた。
そんな犬を満更でもなさそうに、骸は撫で続ける。
だがふと、骸は口にする。
「犬は知らなかったのですか?と僕は契約していませんよ」
「・・・え?」
「は自らそれを望んできましたけれどね」
とつぜんの告白に驚きを隠せない犬。
なんでれすか・・?と彼に聞いても、骸はクフフと笑うだけ。
だって・・あのとき、だって食べたはずだった。自分たちと同じ林檎を。
がむしゃらに、目の前にあるモノを食べただけだったはず。
そんな目で骸を見れば、彼は悲しそうに笑う。
「少し細工をしましてね。の身体へは憑依できませんよ」
だからこの世界で、やってみてしまいました。
悪びれずに、今度は楽しそうに言う骸に、犬はただポカーンとしていた。
「ちゃんと野菜を摂るようになったのはいいですが、頭も動かしましょうね」
「Σきゃんっ!」
「クロームにもちゃんと分けてますか?」
「・・・が」
「犬も気つかってあげてくださいね」
「・・・はいびょん」
まるで保護者のように言う骸。犬はそれがとても嬉しかった。
そう喜んでいれば、骸はまたとつぜん言う。
「犬、誕生日おめでとうございます」
「え、骸さ…」
*
「・・・」
「あ、起きた?」
犬のベッドの淵に座っていたが、彼に言います。
しかし、犬が彼女を呼んだのは寝言だったようです。
側に居る千種が無言でを見ていて、は睨み返すように千種を見ます。
「めんどい」
そう言って千種は部屋を出て行ってしまいました。
部屋に残された。犬が寝相で転がっているのを見て、先ほどのことを思い出します。
「なんで私が出てくんのよ・・」
骸さんに会えてないのかな。だからってなんで私・・・。
彼の夢、精神世界でのことはは知る由もありません。
は犬の頭を撫で、思います。
(骸さん・・・。どうか会ってあげてください。今日は犬の…)
そこで思って止めました。はまだ、やっていなかったからです。
・・骸さんのことばっか考えてて忘れてた。犬、ごめんね。
頭を撫でていた手を額に当て、一撫でしたあとに手を頬へと添えた。
「お誕生日おめでとう。犬」
母が眠りにつく子へするように、犬の額へキスした。
は微笑みながら犬から身体を離すと
パチッ
「あ」
犬が目を覚ました。
すぐに上半身を起こし辺りを見回す犬。
そして目の前のを見た。
「起こしちゃった?」
「あ、ん?む、骸さんは・・?」
「・・結局会ってないの?(気づいてないか)」
「・・・・居たびょん」
そうか、骸は時間がないから間もなく話してくれてたんだ。
あまりの嬉しさに忘れていたこと。それを犬は悔しく思い始めた。
一方のは「そっか。よかった」そう言うと、さっさと部屋から出ていってしまった。
出る間際にの頬が少し赤かったのを犬は見て、疑問に思ったが
骸への思いがまだ治まっていなく、見過ごしていた。
「骸さん・・・」
自分はお礼言ってない。だけど確かに聞こえた骸さんの声。
本当に祝ってくれた。確かにあの世界で言ってくれたのだ。
朝の夢とは違う本人から。世界の感覚というものが違う。
夢のような曖昧で霞んだ世界ではなく、現実と間違えるほどそこはハッキリとしている。
ハッキリと――聞いたのだ。彼の言葉を。
段々と悔しさが治まっていき、犬は冷静になれてきた。
寝る前と違って、気分最高だびょん!のおかげらな!
そしてのことをやっと考え始める犬。
そういえば彼女はずっとココに居たんだろうか。何をしていたんだろうか。
出るときの赤い顔はなんだったのか。
いつもなら『まあいいか』と放っとくが、骸も言ってたことで頭を使う犬。
オレなんかしたっけなー・・。
は骸さんのこと訊いてきて・・・ん?その前に起こしちゃったって・・んん??
なんかオレにしたのか?
足と腕を組み、首を傾げ頭を捻らせる犬。
起きる直前、目を開ける直前のことを思い出そうと必死になって考えて・・・
(・・・・、あ)
そして思い出した。
「は、ハズいことしてんじゃねぇびょん・・・!」
ベッドに転がって丸まる犬。
恥ずかしさを誤魔化すように、額を叩く。
その瞬間、頭に額に頬。彼女の触れた全部が熱くなる。
うずくまって、なんとか誤魔化そうとベッドをまた転がっていく。