「骸さん、お誕生日…」
「おめでとうございます!」
「おめれとうございますっ!!」
「おめでとうございます」
「・・・やっぱり無理があるよ」
そう一言告げた髑髏は、私をまっすぐ見ていた。
今はいつもの無表情に、少し困ったような雰囲気を足して。
千種や犬の視線が怖いんだろうか。ごめんね髑髏に罪はないのに。
「ありえねぇびょん!」
「・・・・あたりまえ」
うん、やっぱ無理があるよなぁ・・。
そう。この作戦を提案したのは私だ。だって今日6月9日だもの。
どうしても祝いたい。貴方という人が生まれたこの記念日に。
骸さんにこの一言だけでも言いたい。けど骸さんは相変わらず神出鬼没。
ので、ここは髑髏のテレパシーで骸さんへ届けよう!
っていうことで髑髏を私の目の前に座らせて、3人で髑髏の前に囲うように座る。
そしてメッセージ言って、髑髏に向かって微笑む作戦。ということだ。
でも考えれば、二人の通信するときって骸さんから髑髏に話しかけてんだ。
・・確か髑髏からも話しかけられるって思ったんだけどなぁ・・・。そうだ。確かできた。
またどっかで能力使ってんのか、誰かに話しかけてんのか。骸さんの行動は予測できない。
さてどうしよう。この作戦は失敗。
今の失敗で犬はやる気を一切なくし、千種もかなり減っただろう。
髑髏はなんとかして祝いたいと思ってくれてるのか、
「ごめん」と、私の服の裾を掴み引っ張りながら言ってきた。
「髑髏のせいじゃないから…」
「ごめんじゃねーびょん!役立たず!!!」
おまえ、これ以上髑髏イジめたらさすがに骸さんに殺されるぞ。
そういう意味でギッと犬を睨めば縮こまった犬。
いい加減イジメやめろよ。私も最初は髑髏キライだったけど、今じゃ可愛いもんだろが。
まぁまだこの二人はわかんないだろうけど。
一つ溜息を吐いたあと、どうしようかと千種に訊く。
「知らないよ」と何もない返事だけが返ってきた。始めっから期待してないけど。
また一つ考え、今度は髑髏に訊く。
「骸さんに話しかけてるの?」
「うん。でも返ってこない・・」
「なんか今はやってんのかもね」
今日はもう遅いし、寝てからやろうか。
そう言ったらバラバラの反応。
髑髏は納得したように頷き、千種はさっさと帰り、犬はイヤそうにハァーっ?と言う。
「またやるびょん・・?」
「そう」
心なしか、犬が弱気に見えるのはさっき少し脅した所為か。
じゃあ解散っと素早く言って自室へ戻る。
風呂は既に入っていて、もうあと寝るだけになっていた。
最後に少しだけ雑誌を読もうかと手を伸ばし、読みかけだった続きから読み始めた。
数分経ち、そろそろ眠くなってきたかと思うころのぼやぼやした中、不意に響く。
『』
「ッ!?」
寝っ転がっていた状態からガバッと起き上がる。
今、名前を呼ばれた・・。しかも声とこの感覚は…
「骸さん・・・」
部屋にむなしくも響く声、返事は返らない。
空耳か・・。そうだ、考えすぎなんだよ幻聴ゲンチョウ。
そう思い、また寝っ転がる。
居なかった脱力感と元々の眠気で、すぐにまた襲ってきた睡魔。
またうとうと。今度こそ、もう布団を被って寝てしまおうかと思ったとき。
私に影が一つ、落ち重なった。
「もう寝てしまうんですか?」
「ふっキャ・・ア!?」
突然クフフと聞こえた声は、私のすぐ上からだった。
そこには先ほどから逢いたかった人、骸さんが居たのだが…
「な、何してるんですか!」
「力を使って実現化してしまいました」
「体勢です、タイセイ!!」
「傍から見れば、僕がを押し倒してますね」
あー・・・。長年いっしょに居たけど、一度もやられたことなかったのに。
ついにやられてしまった出来事に落胆している私と、上機嫌な骸さん。
そんな骸さんを退くように言うと呆気なく却下される。
でもそこは譲れないので、また言うとまた却下。
それを数回繰り返す。
「し、しつこいですよ」
「イヤです。やっとこんな関係になれたのに・・」
「いや、関係は変わってません」
とにかくタダじゃ退いてくれる気はないそうだ。
もうキリがないので「何すればいいんですか」と直球に訊いたら輝くような笑顔で言われたよ。
「まぁ、されるがままに…」
「いいいいやです、絶対」
絶対アブナいことする気だよこの人は・・!
ココは普通の答えを求めた私がバカだったんだろうか・・・。
それからまた繰り返し。骸さんのやることなすこと、全て却下して避ける。
それはすべて普通じゃなかったから。
どうにかして退かそうにもまったく退く気は、変わらずないようで
直接チカラで無理やり退けるなんてできないし、むしろ骸さんにチカラで敵うわけない。
しばらく口論するにも、ホント・・キリなくなってきたよ・・・!!
そりゃもうしつこいしつこい、何分続いた?少なくとも20分は言い合ってるだろう。
「いい加減、観念してください・・!」
「いーーやーーでーーすーーー!」
それからまた何分か経ち、もう断るネタもなくなってきた頃
とつぜん骸さんが黙る。
「・・・・・」
「・・・?」
彼はまだ、あの体勢でいるから私を見下ろしてる。
その顔すら無表情だ。(骸さん、大抵いつも笑ってるのに・・)
少し不安に感じ、彼の名前を呼ぼうとすると
「は僕がキライですか?」
そう呟くような小声で言われた。
思わず「え?」と聞き返すが、聞こえなかったわけじゃなかった。
ちゃんと聞こえた。でも自分の耳を疑ってしまうほど、今の言葉は瞬時に理解ができなかった。
私が聞き返したはいいが、骸さんはまた黙る。
そして何を思ったのか、急に私の腕を引っ張って起き上がった。
勢いに任せられる私の身体は、そのまま骸さんの腕の中へすっぽり入った。
「は僕がキライですか?」
さっきと同じ質問。(やっぱり聞き間違えじゃなかった)
その問いに私は小さく首を横に振る。
「どうしてそう思うんですか」
抱き返しながら訊くと「があまりにも僕を拒絶するからです」と。
・・・・・だってあなた言うこと、めちゃくちゃなことばかりなんですもの。
まぁこれは心に留めておく。少し誤魔化して「骸さんのことは好きです」と言う。
貴方の顔はまだ見えないけど、まだ不満があるようなのはわかる。オーラが変わらない。
まだ何か言ってほしいのだろうか、それともまだ何かやってほしいのだろうか。(これ以上は難しい)
骸さんの返事を待つ私に、今だ黙りこくってる骸さん。
さっきとは違い、煩い言い争いの空気ではなく、今度は静かに数分が流れていく。
骸さんはしばらく経ったあと、諦めたように「まぁ許してあげましょう」と言った。
なんだか知らないが許してもらえたらしい。たぶん譲歩したんだろうな。
そう呑気に思ってると「」と呼ばれる。
「僕に・・逢いたかったんではないですか?」
「あ、」
「目の前にいますよ」
少し距離を開けて、やっと見せてくれた顔はにこやかだった。
そうだよ、今日は・・・
思い出し、骸さんに言いかけた途端にまた一つ思い出した。
プレゼント・・・。どうしよう、何もない。
本当はチョコケーキでも作ってあげるはずだった。
でも0時ぴったりのみんなでやった作戦には、正直じぶんでも期待してなく
ましてや、今寝る前に骸さんが来るなど、誰が予想するだろうか。
総合的に作ってない。何も用意してないんだ。
「(どうしよう・・・言っちゃうか?何も言わないとイジケられるだろうしな。
でも何も用意してないってのもイジケられそう。ってどっちもイジケんじゃん!)」
数秒の心の中での葛藤は、あっと言う間に決意できてしまうものだった。
言おう。もう今日逢えないかもしれないのだから。
無駄に男前に意気込んでいると、骸さんは「クフフ」といつもの声で笑った。
「骸さん・・・」
「はい」
至近距離で見つめ合う。なんか変な感じだけど言ってらんない。
でも一度意識してしまったものは簡単に消えず
心なしか、骸さんの顔との距離が縮んでってる。
無意識に腰や後頭部に回された手。
そして私も無意識に、骸さんの肩へ手を乗せる。
あとほんの数センチ、お互いのそれが重なりあうってとこで…
「お誕生日お…」
「ダメらびょーーん!!!!」
!!?
唐突すぎる叫び声は容赦なく私の声を遮り、
叫んだ本人は私に突進してきた。
「ぐ・・!」
「骸さーん!!」
「骸様、無事ですか?」
「・・・・」
ちょっと千種。私が襲ったみたいに言うな。
突進してきた犬は、私を飛ばしたあとすぐに骸さんに抱きつく。
おそらく部屋の外から覗き見、盗み聞きしてたんだろう。犬に続いて千種に髑髏も来た。
このやろうども、どうゆうことだ。そうゆう目で2人を睨むと、
ちょこちょこと遅れてきた髑髏が、少し悔しそうな上目遣いで私に言う。
「一人だけは・・・だめ」
・・・そうゆうことか。抜け駆けはダメってことね。
っつかアンタらいつから居た。そういうと「口喧嘩、うるさい」と言われた。
あぁ、あの骸さんとの攻防のときか。やっぱ煩かったか。
よし最後に質問いいかな?
止めるだけなら、なんで突進してきた?待ったの声だけじゃダメだったの?
そう犬を今日2回目の一睨みすると、犬は骸さんに抱きつきながら0時のときより縮こまる。
と、犬を見て思い出した。さっきから骸さんが無言だ。
不思議に思い、骸さんの顔を見れば・・・・・・・・・犬!!今ゼッタイ上見んなよ!!
そう心で言うもむなしく、犬は私の異変に気づき、本能的に骸さんの顔を見てしまった。
沈黙
犬は正面の骸さんの顔を見ていて、私からは犬の表情は見れない。
ただ一つだけわかる。さっきよりも犬が縮こまってるのが。
千種と髑髏は賢く、始めっから見てないようで不自然に他の場所を見ている。(このやろう!)
とりあえず、被害者は私と犬だけで、たぶん自分たちの第六感が逃げろと言ってる。
犬は間近ってことで圧力かけられ身動き一つ取れない。私は簡単に逃げれるが、恐怖で足が竦む。
だってとっても真っ黒なオーラ出して、目がぱっちり見開いて
少し充血して笑ってるんだもの。
「・・・・犬」
「きゃんっ!・・・はい・・」
「おしおきが必要ですね」
「きゃぉぉん!!」
まだ骸さんは何もしてないのに悲鳴をあげる犬。
と、とうぜん犬に天誅が当るとみんなが思う中、骸さんは犬を解放した。
「・・・む、くろさん?」
「と言いたいところですけど、また今度にしてあげましょう」
そう言うと骸さんが薄くなりはじめた。もう能力が残ってないんだ。
そうわかると焦り始めるみんな。
「みんな!」とみんなの冷静さを取り戻したのは、珍しく声を荒げた髑髏だった。
「言わないと・・・」
「あ、よしきた!」
髑髏の言いたいことがわかると、みんなで骸さんの前へ行く。
今度は本物の骸さんだから、髑髏も自分が言えるので嬉しそうだった。
数時間前のように、みんなで並んで私が最初に言う。
「骸さん、お誕生日…」
|