今は、ずっと隣にあった温もりはない。
いつもには、僕の隣に座らせていた。
戦闘のときも変わらず、犬と千種だけを出して。
僕はいつものソファの真ん中に座り、には隣、
もしくはソファではなく床にクッションをひいたソファの手前に座らせる。
それでも1m以上は僕から離れさせない。
ずっと僕から離れさせないのは、また離れる時がくるからだ。
外と牢獄
「・・・、遅いれすね」
「・・・・・・」
暗い牢獄の中、犬がぽつりと言った。
その声は鉄柵の前に居る、ヴィンディチェの使いには聞こえていない。
少し間を空ければ、ガチャンと扉の開く音。
奥のドアから人が来たようだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
来たのは、やはりヴィンディチェの牢獄の使いだった。
その者は、通過地点とでも言うように牢の者を見もせず、もちろん同僚の使いにも目をくれなかった。
それと同じように、罪人を見張る牢獄の使いも何もないようにただ僕たちを見張る。
カツコツ…、と足音だけが鳴る。
丁度僕たちの入れられている牢の前を通りかかろうとしたその者は、チラリと僕を見る。
それと同時に、目にも留まらぬ速さで黒い封筒を投げてきた。
そのスピードについていけるのは犬だけ。封筒を受け取った。
そしてその者は、密やかに笑みながら行く。
「やっときたびょん!」
「犬、静かに」
「クフフ、もうそろそろでしょうかね。に逢えるのは」
「楽しみれすっ」
「犬、静かに」
器用な千種が犬から封筒を受け取り、堅く封じられた紙を静かに開ける。
この暗い中、黒い封筒は大変見え難い。
その上、黒い紙に黒い文字は、牢獄の使いどころか僕たちもまったく見えない。
読むには、千種の嫌いな根性とやる気が必要だ。
あとは千種の解読を済ませば、僕が読むだけ。
あの妖しく笑う顔を、早く間近で見たい。
もちろん顔中に巻かれた包帯も取って。
「骸様」
「おや、もうですか」
「はい」
いつもより早い解読に関心しながら、解読法を聞く。
そして渡された"手紙"を読む。
「・・・クフフ、今夜には行けそうですね」
「マジれすか!?」
「犬、静かに」
「簡単に説明しましょうか」
あぁ・・・早く逢いたい。こんなにも胸が高鳴る。
早速作戦を立て、二人に教える。
クフフフフ。脱獄手引き、頼みますよ。。
僕は大罪を犯した。
それも一つではない、いくつもの罪だ。
このくだらない世界を壊したくてたまらない。法なんてモノは僕には関係なかった。
まぁまずは世界規模ではなく、イタリアが盛んな愚かな組織、マフィアの殲滅狙いだった。
数ヶ月か前、僕は捕まった。
鉄壁と言われる「復讐者の牢獄」に入れられ
僕の部下2人、犬と千種も一緒に入れられた。
そのとき、公けにされてた僕たちの情報は「超危険殺人者3人」。
僕を捕まえた者たちは僕たち3人を捕らえ、僕たちによる事件は解決したと思っている。
だが、僕にはもう1人仲間がいた。
それが。いつも僕の隣で大人しくさせていたから、世間には知られていないのだ。
彼女とは捕まる際に別れた。ある命令を伝え。
そして彼女は今、その命令に従い、ヴィンディチェの牢獄のスパイをしている。
もちろん、僕たちの脱獄手引きをさせるために・・・。
*
「まぁ、所詮マフィア。ヴィンディチェのレベルもたかが知れてますね」
「そうれすね!やっと自由らびょん!」
久しぶりに出た外は肌寒かった。
脱獄は粗できたが、逃げきる前に夢の中へ行く。
身体が傾き、千種と犬に支えられるのを感じ
僕は眠りについた。
『』
『骸さん』
『脱獄手引き、ご苦労様でした。無事成功です』
『はい』
夢の中。僕が気付いたとき、既に“彼女”は居た。
いつもの僕だけの幻想とは違う、真っ暗な場所。
姿は見えないが彼女の声は響き、僕まで届く。
『そちらはどうです?』
『明日には合流できるかと』
『わかりました。ではまた明日』
『はい・・・』
との短い会話を終え、視界が歪んで薄れてゆく。
目が覚めたときにはが用意してくれてた、いわゆる秘密基地に居た。
クフフ、よくの性格を表していますね。
僕のベッド周辺だけ美しい。
「まったくは!骸さんだけ贔屓だびょん!」
「犬もそうしたでしょ」
「柿ピーはやりすらしないと思うびょん」
「・・・・・・」
どうやら二人は、自分の寝所周辺を掃除してるようだ。
二人の会話に少し声を出して笑いそうになるも、静かに起きあがる。
そして僕が起きあがれば、二人はすぐに僕の元へ駆け寄る。
「骸さん!」
「クフフ。ご苦労様です」
「との連絡は…」
「取れました。明日合流します」
「やったびょん!」
「ふぅ・・」
僕の言葉を聞いた途端、
犬は盛大に喜び、千種は表情に出しこそはしないが静かに安堵の息を吐く。
クフフ・・・
「ついさっきまで、に文句を言ってた人たちのセリフではありませんね」
「っ!!」
「!」
おや、つい口滑ってしまいました。
「む、骸さん・・・さっきの聴いてたんれすか?」
「はい。バッチリ」
その途端、二人は青ざめる。
この二人は何故だか、僕の前での話しをしない。
僕に隠し通せると思ってるんでしょうか。とっくに知ってますよ。
二人がに想いを寄せていることなど。
僕がにっこり笑えば、二人は震える。
おや?気にしないように微笑んだんですが、逆に捉えましたか。
「そんなことより、ちゃんと今日は休んでおきなさい」
もう誤解を解くのが面倒になったので、話題を変えた。
「明日と合流次第、すぐに出発しますよ」
急な作戦に急な行動、やることは沢山あります。
そう言えば、二人は頷く。休息しろというのに、意気込んでどうするんですか。
少し笑いながら、これからのことを考える。
休息といえば、まずは食事。食料の方はどうなってるんでしょうか。
「千種、食事の方は?」
「が用意してくれてます」
「骸さんにはもちろん、オレらにもデザートがあるんれす。には珍しく」
会話をしながら台所へ行く。
コンロの上には十八番のシチュー。冷蔵庫を見ればデザートがいくつか。
確かにこの量では、僕一人にとは考え難い。
そしてよく見ればメモが置いてある。
『みんなが好きなシチューを作りました。
多めに作っておいたからいっぱい食べてね。
犬はステーキとかがよかった?ごめんね。』
そこまで読んで驚いた。
あのが犬を心配して、謝っているではないか。
そう思ったが、次の文で撤回した。
『お肉高いんだもの。犬にそんなお金掛けられない。
(骸さんにならいいけど)』
相変わらず・・・ですね。
僕がクフフと笑っていると、二人は疑問符を浮かべる。
『それと甘いものはエネルギーになりやすいので、デザートも作っておきました。
骸さん、いつものはもちろん
色んな会社からチョコレートを取り寄せました。
お気に入りがあったら言ってください。』
いつもの気転の良さには関心する。
僕のお気に入りブランドは教えてありましたが、
長い間牢に入ってたので、味も変わる可能性もある。そう考えたのですね。
・・・まぁこのメッセージ、裏を取れば
私の代わりにお前らが動くんだから、エネルギー回復しとけよ
ということですが・・・ならありえますね。
『それと犬、千種。デザートは全部骸さんのなので、
欲しければ心優しい骸さんに分けてもらいなさい。』
「クハハハハ!!」
「っ!?」
「む、骸様・・?」
突然、大声を上げ盛大に笑った僕に二人は非難の目を向ける。
「本当には最高ですね・・・」
「なんか書いてあったんれすか?」
「・・・・・・」
犬は自分にとって良いことが書いてあると思ってるのだろう。目を輝かしている。
のメモの最後の行を読み、犬と千種に渡す。
そしてコンロに火を付け、冷蔵庫のたくさんのチョコレートたちを見る。
ふむ・・・も味見したようですね。色んな料理がある。
「、最悪だびょん!!」
「どうせこんなんだと思ってたよ」
おや、あれを見たんでしょうか。クフフっ!
心では嘲笑いながら「大丈夫ですよ、ちゃんとあげますから」表面上では暖かく微笑む。
たぶん、も嘲笑っていたでしょうしね!お揃いです。
それに気付かない犬は「骸さん、最高れすーー!!」と僕に抱きつく。
千種はそれこそしないがまたもや安堵の息を吐く。
クフフフフ、ベタ惚れですねぇ2人共。僕からすればこの2人も素直で可愛い部下たちだ。
・・・そう思うとが一番素直じゃありませんね。可愛いですけど。
と、僕もベタ惚れしていることに気付いてしまった。
当然ですがっ!は僕だけのものです!
(怪しく)クフフと笑っていればシチューのいい匂い。
ぐぅぅ~…
その匂いを嗅いだ途端に腹を鳴らすのは、犬ではなく千種。
犬は大笑いし、千種はメガネを上げ
「殺す・・・」
と脅しではなく宣言をする。不器用なテレ隠しですね。
「え、ちょ、柿ピ、は、マジで…」「死ねよ」「ぎゃー!骸さぁぁん!!」
キャイーンと僕に助けを求める犬は既にヘッジホッグに捕まっていた。
絞め殺すのか、その鋭利な糸で切り込み殺すのか、ぎゅぅぅと糸の先と先を引っ張る千種。
相当怒っているようで、僕が言っても止まりそうもない。
「犬。千種だってたまにはそうゆうこともあります。謝りなさい?」
「骸さん、のんきなこと言ってないれ早く助けてくらさいーー!!」
おやおや、もうあんなに食い込んじゃってたんですね。通りで犬が青いと思いました。
クッフフッフフー♪と鼻歌を歌いながらシチューをかき混ぜる僕。
千種だって馬鹿じゃないんですから、加減ぐらいしてくれますよ。犬はおバカさんですね。
そう思っていれば一層ひどくなる犬の悲鳴。
・・・拷問くらいで済ませてくれるんじゃないでしょうか。
少し経ち、もういいかとコンロの火を止める。
さて、こうゆうのはいつも千種に任せているのでお皿の位置がわかりませんね。
もう2人のケンカも終わったと思いますし、千種に訊こう。
「お皿どこですかー?」「骸さん皿は呼んでも来な…」「棚の上から3段目にあります・・っ」
おや、まだ終わってませんでしたか。(犬の声を聞いた瞬間、ブシュッという音も聞こえました)
そのまま無視をしていて、発見したお皿を取り出せば
「アンタら、何してんの!?」と懐かしい声。
・・・・・・・・まさかっ・・!
すぐに、その声を発した本人が居るであろう場所へ目を向ける。
そうすれば視界いっぱいの赤…
どんっ
「っ!」
「いでっ!」
「「あ」」
少々気付くのが遅れたせいで避けきれなかった、犬の身体。
あの赤は犬の身体についた大量の血だった。
座りこんでしまった僕の目の前には、呆然としている千種と
ずっと逢いたかった僕のが居た。
「っ!帰ってきたんですね!!」
「む、骸さん!?」
を抱きしめる僕と、戸惑いながらも抱きしめ返してくれる。
どうやらさっきの出来事はが2人のケンカ現場を見て、血まみれの犬をヘッジホッグから救出するべく
無理やり投げ飛ばした。そしたら投げた先に僕が居た、というところでしょう。
クフフフフ・・・僕の存在に気づいてなかったということですね、?
と、心の奥底で思うが、今の僕にはどうでもいい。
こんなにも近くに愛しい人がいる。
愛しい人の顔が見れる、声が聞ける、肌に触れられる
たったそれだけでこんなに嬉しく感じる。
「クフフフフ・・!!クフフフフフフフ!!」
「む、骸さん骸さん、怖いです・・!」
幸せすぎてか、込み上げてくる笑いを抑えきれない。
(む、骸さん恐ぇっ)(・・・・・・)
(ふ、ふたりとも!助け…コラ!逃げようとするんじゃない!)
クフフフフ・・・何か3人が心で会話してる気がしますが、気のせいにしましょう。
久々に会えたんです!好き勝手やってやりますとも!!
「、!今夜は絶対離しません、寝かせません・・!!」
「(ひぃぃぃ)わ、かりましたから一度放してください」
「嫌です、絶対離しませんよ!」
「(ラチが明かない)骸さん、の顔が、見たいんです・・」
「ーーー!!いつからそんな可愛いこと言うようになったんですか!」
(火に油注いでどうするんだ・・・)(ちょ、二人共そんな顔しないでよ)
おやおや、また何か感じますね。二人共何処か行ってくださってくれればいいのに。
そう嫉妬すれば、その隙にが僕から逃れてしまった。
「腕を上げましたね」
「む、骸さん。私の意見くらい聞いてください」
お互い短い距離で構える。その状況で「どうしたんですか?」と訊くと
「どうしたんですか、じゃないです。
早めに抜け出すことが出来たので、今来れました」
あぁ。本当、突然すぎてびっくりです。
予想より大分早い再会に、驚きすぎて重要なこと忘れるほど喜んじゃいましたよ。
「おかえりなさい、」
そう言って、構えを解けばも警戒態勢を解く。
それを確認し、の頭を撫でる僕。
一人だけ、僕たちの下から離れていた仲間。その歓迎…
「ただいま。・・・いえ、」
ではなく
「おかえりなさい」
一人だけ、表の世界から牢獄の世界へ追放されることなく
独りだけ、取り残された仲間の元へ帰ってきた僕たち。
彼女は、僕を確かめるように抱きつく。きつく、きつく。
僕も彼女を確かめるように、犬も、千種も。
全員の存在がそこにあることを祝って。
「ただいま」
は笑ってくれた。
「ココにも長居はできませんね」
「どうすんれす、骸さん」
の作ってくれた暖かなシチューを頬張る犬。
「食べながら喋ると火傷するよ」
「あちっ」
「言わんこっちゃない」
「クフフ」
冷えた身体を中から温められる感じ。
犬はいつものことですが、久々の暖かい食事に興奮しているのは千種も僕も同じ。
自然とみな早く食べてしまう。
それに比べてはまったく進んでない様子。
は僕たちの様子を見ているようだった。
「うめー」
「犬、いっぱいこぼしてる」
犬からは自然と口に出る言葉をは軽く無視しているように見えるが、とても柔らかい顔で笑っている。
料理を褒められて喜んでいる姿は、やはり女の子で可愛い。
そう今思ったばかりなのに、一瞬で表情を変える。
「あたしならいつでも動けますよ」
どうやら話を戻したらしい。まだその話はいいと思ったんですけどねぇ。
まぁ先に動けるなら、それに越したことはないですが。今は休んでほしい。
特には・・・クフフフフ。
「(ぞぉぉ)」
「ん、顔青いびょん」
「い、今寒気が・・・」
僕が考えている間に言っていた2人の言葉。千種は無言だった。
(やはりマフィアの殲滅・・が、今の最大目標なら…)
噂に聞いた外の、マフィア界トップのファミリーを少しずつ思い出す。
ボンゴレ・・・だったか。
詳しいことはに訊けばわかるだろう。
とりあえず、一番覚えていたそのファミリーの情報。
「日本へ・・。ボンゴレのボス候補を潰しにいきます」
いつも隣に居てくれた最大の温もり、自身。
もう・・・離すことのないように。
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と、とりあえず・・・続く?
固定ヒロインの重要話。小説で髑髏たちの話も出たので、そっちの話も書きたい。
最後のセリフは・・続くのでその話を切な目にするため、書いた。
あれ・・・また骸さん捕まっちゃうし。
その話をアップするまで、このセリフを覚えてたら切ないかなと(爆
公式に先やられた千種がぐーネタ。読む前から書いてましたよ・・!
決してパクりじゃないんです。千種がお腹鳴らしてるの可愛いなと思っt(殴
2008.02.14