ボーッとする。
頭の上から、みんなの声が聞こえる。
でも・・・肝心な、トワくんの声だけが聞こえない。
「・・・トワくん」
心の中で呟いたつもりなのに、その自分の声は明らかに耳に入ってきた。
それに何より、その瞬間みんなの駆け寄る音が聞こえてきた。
「!?起きたか?」
「大丈夫かいちゃん。具合は?」
ハヤテさんとソウシさんの声。その声のほうへ向いて目を凝らすと、浮かんできたシルエット。
あ・・・私、寝てたんだ。なんでこうなったんだっけ。トワくんと甲板掃除してて・・・。

「トワくんは」
「は?」
「トワくん・・・いないの?」
「・・・お前トワトワトワトワうるさいんだよ!!」

ハヤテさんは、ずかずかと歩いていってしまった。
そんなハヤテさんを見て、ソウシさんはため息を吐いた。
「ハヤテは拗ねちゃって・・・ちゃん。ハヤテはちゃんが倒れてずっと心配してたんだよ」
ソウシさんは私の顔へ手を伸ばすと、
私の視界は広くなる。額にあったタオルが片目に被ってたようだった。
そんなソウシさんを見つめてると、ソウシさんは自分の来た方へ目を向ける。
つられて私も見ると(・・・・・あ、)

「シンさんナギさん、トワくんいじめないで・・・」
「あぁ?お前誰に言ってんだ。俺だぞ」
「・・・べつに意地悪してるわけじゃない」

トワくんを見つけたのだけれど、トワくんは二人に捕まって口を塞がれてた。
状況を説明してほしいという目でソウシさんを見ると、ソウシは笑った。


「甲板掃除してたでしょ?ちゃん、日射病で倒れたんだよ。トワの管理不備ってことで、みんなで責めてたんだ」

「そんでお前が起きて、トワは騒ぐだろうからシンとナギに抑えてもらってんだ」


ニコッと怖いこと言うソウシさんに続いて、船長がやってきた。
そんな船長を見たトワくんは「んー!んー!!」と船長に訴える。(トワくん・・・っ)
船長はわざとらしくため息を吐いたあと、トワくんの頭をガシッと掴んだ。(っと、トワくん・・!!)

「外してほしいんだろ?トワ。は具合悪いんだ。刺激与えないって約束できるか?」
「ん!んー!」コクコクッ
「ナギ外してやれ。シン銃とロープをしまえ」
「(シンさん・・・)」

シンさんは小さく舌打ちして、トワくんを脅していた銃をしまう。
ナギさんに解かれて自由になったトワくんは
勢いよく私の下へ来たはいいが、急に減速して優しく泣きそうな表情で私を撫でた。
「さん、ごめんなさい。僕がちゃんと見てなかったから・・・」
「トワくんっ・・」
トワくんのせいじゃない。そう言いたいのに声がでなくて。
トワくんにそんな悲しそうな顔をさせてしまって、涙が溢れだす。
「っ!!??え、さん!?なんで…」「トワ!!てめえやっぱり泣かせてんじゃねぇかよ、出てけ!」
あぁ、ごめんなさい。みんなを困らせたいわけじゃないのに。泣いたってしょうがないけど、止まらないの。
だからせめて、今にも追い出されそうになって離れていくトワくん・・・には届かないから、ハヤテさんへ手を伸ばして服の裾を掴んだ。
「・・・トワくんを、連れていかないで?ハヤテさん」
まだ寝ぼけた頭で頑張って言えば、ハヤテさんはトワくんを放り投げて、今度こそ出て行ってしまった。
それに続いて行くみんな。
部屋に残っているのはトワくんだけみたいだった。



「あ、あのさん。何か食べたいものとかありますか?あ、でもその前に水飲んだ方が…」

一人であたふたするトワくんがおかしくて、ついクスクス笑ってしまった。
そうすると、トワくんは顔を赤くさせて近寄ってくる。
照れても、私に優しくするのは忘れないで。
それがまた可愛くて、
「トワくん。もっと近くにきて、一緒にいて」
私の具合が悪いせいかわがままを言ってしまう。
トワくんは、一瞬だけ驚いた顔すると近くにきてくれて、近くにきてくれて、近くにきてくれて

ちゅっ

可愛らしい音を立てて、唇に触れた。
目前にはトワくんがいて、瞳を揺らしながら私をみつめるその顔がやけに色っぽくて
つい見とれてしまう。
「そんなこと言われたら・・・我慢できないよさん」
いつもはこんなことされて言われたら、顔を真っ赤にしてしまう私だけど
いまは、ただただわがままを利いてもらえたような、甘えてもいいんだと。
嬉しくて彼の名前を呼んだ。
「トワくん」
「ん?なに、さん」



「大好き」






熱がある私より赤い彼

2010.12.28(マイナー万歳←)