「ア・ン・タ、さぁ・・・。あの噂本当?」

「あぁ?なんの話ししてんだテメー」



あの氷帝の生徒会長で、モテモテ人気者の跡部景吾に気軽に話しかけても
他の女子に虐められない女子は、その景吾の幼馴染である私一人だけだと思う。

なんでかと言うと、普段は景吾の周りをうろつく女子は大抵睨まれる。
けど私は一切睨まれない。むしろ面白そうに見られる。
それまたなんでかと言うと、殆どケンカしかしないからだ。
ってことで、私は無害だと見られてる。まぁ・・・
景吾にそんな感情抱かないから安心しろ、変な噂流れんの迷惑
と言ったのは私だけど。



「とぼけんなぁぁ!心当たりがあるでしょう?」

「うるせぇ、失せろ」

「素直に言ってごらんなさいな、
 今、氷帝どころか他校までこの噂で持ちきりでしょうが!!」



ビシーッと指差してやると、めんどくさそうに溜息吐かれた。

「早く言えやボケノロマ、クール装ってんじゃねぇぞ」
「あぁ本当だ」
「マジぃぃ!!?っつかいきなり前振りなく言うな!ビビったろうが!」
「ホントうぜぇなテメー」

アイツと同じ生き物だとは考えられねぇな、と聞こえたよふっふーん。

コイツは昔から、愛想が悪いやつだった。一応。
でもモテるから人間関係は特に悪くなくて
でもコイツ、女遊び激しいんだよな。
まぁ本人が何思ってんのか知らないけど、将来不安だから忠告してやっても聞かない。
そんな女を汚す悪魔みたいなやつだけど、先日とっても驚く噂を聞いた。

そう。気になる気になる、あの景吾の噂とは
好 き な や つ で き ち ゃ っ た よ お い
的な噂だったのだ!!
「いてっ!」
「それはガセだ」
「どっちだよウソツキ」
「誰もんなこと言ってねぇ」
まぁ、こんな暴力最低野郎でも本命できたんだ。一歩前進だよ、やったね☆
そう言ってやると無視だ。あれ?殴られると思ったんだけど。
しかーし。ここは第六感が良い私の出番。レーザーよ、景吾は何を考えているんだい?!
ビビビ・・・窓ノ外ヲ見テオリマス、ゴ主人サマ。
ありがとう。さぁ、視線の先には・・・やっぱか。



「景吾ちゃん。可愛いね、ちゃん」

「!」



おぉ、久々に驚いてる顔みたぞ、くっくっぐっ
ぐぇぇ、胸倉掴むな!身長差何センチあると思ってんだ、ぐるしい!
ムカついたので容赦なく急所を蹴り上げる。



「・・・・!」

「く、苦しかった・・!」



傍からは「何やってんだ」の視線。
しかしそこは、プライドですぐ起き上がった景吾がみんなを黙らせた。
そしてすぐに私を連れて、誰も居ない生徒会室へ。



「おいテメー、ふざけるんじゃねぇぞ」

「け、景吾怖い・・。ごめんごめん」



あまりにもマジメに本気で睨んでくるもんだから
さすがに悪ふざけが過ぎたか、と思い、素直に謝った。



「いやね、ちょっといいこと教えてあげようかなー?と」

「テメーに教えてもらうことなんざ、何一つねぇ」

「言い切ったな。
 いいのかなー?そんなこと言って。あーあ。知らないー」



そう言ってやれば「何が言いてぇ」と睨む景吾。
ごほん、と一拍置いて話す私。

あたしはね。幼馴染として結構景吾のこと心配してたんだよ。
そして景吾のことも知ってる。

そう語れば景吾はもっと睨むけど、私がこう言えば…



「あんたこのまま何もしない気でしょ」



びっくら顔。鋭い眼は大きく見開かれてる。
その様子を見て「やっぱり」と呟くと、また睨まれた。

噂聞いた途端、違和感を感じてたよ。
なんでそんな噂漏れたんだろうとか。なんでまだ噂になってんだろうとか。
アンタが好きな娘出来たのは別に初めてじゃない。
前だって何回か好きな娘できたのに、何故今回はこんな噂が流れたのか。
それは前が噂なんて流れる間がなかったから。
景吾はかなり早く手を出して既に彼女にしてた。
だからみんなが気づいたのは、アンタらが恋人同士になってからだった。

でも今回は噂が流れてた。景吾が手を出してない?ってすぐに思ったよ。




「だから、本命だってすぐ気づいた」



そう言うと、睨むこともやめた景吾。
私は笑って「ちゃんと恋だね」って言うと
静かに「あぁ」って言ってくれた。



「今までは軽かったんだ。とりあえず俺のモノになればいい
 そう思った。これが俺の仕方だと思ってた。
 だけど今回だけは違った」



真剣に語る景吾を見て、本気なんだなって思った。
でも景吾は急に私を見た。



「だからこそ、俺は手を出さない」



そう言うと思った。
でも、私は何も言わないで景吾を見てる。


「アイツはいい女だ。
 俺みてーなやつが手出していいやつじゃねぇ」

「そうだね。アンタ最低だもんね」


一つ一つ、景吾を理解してあげられるのは私だけだといいな。
なんて自惚れてた私。私も最低だ。


「俺が言い寄っても、迷惑するだけだろ。アイツは」

「そうだね。ちゃん、アンタみたいなタイプ嫌いだね」


まっすぐでホントいい子。でも確か景吾のこと気になるって言ってたな。
二人は相思相愛か、なんて先を読んじゃった私。


「だから何もしねぇ」

「それは違うよ」


そう言ったら、驚いた景吾。
また見てたのか、窓の外に視線がいってたけど、私に視線を変えた。



「景吾が恋したのは成長だよ。諦めること、ないじゃない」



誰だって過ちはあるし。
そう言ったら、微笑んだ景吾。
あ、なんか素直だな。自分の都合が良いように、自分を甘くしてるな。
あとでビシッと言ってやろう。今は、元気付けてあげるけど。



「良いこと教えてやろう。ちゃん、実は私と友達だ」

「はぁ?嘘吐くんじゃねぇよ、テメーとアイツが同類なわけねぇ」

「失礼な!協力するっつってやろうと思ったのによ!」

「な、テメーに頼むとろくな事ねぇ!余計なお節介だ」

「んだとぉぉ!」



いつもケンカすると、今みたいに怒鳴って怒る景吾。
ここんとこ元気なかったのか、とりあえず私を避けようとするだけだった。
でももう大丈夫だなこれ。大声出たのが良い証拠だ。

そう思って「がんばれよ!」と、景吾の胸を叩く。
景吾は笑ってくれた。「ありがとよ」と



「さぁ、行ってこい!とりあえず話せ!話しはつけとくから」

「な、余計なことすんじゃねぇ!押すな!」

「私はここで見守ってあげるから!」



ガララララ ピシャッ

景吾を追い出して携帯を取り出し、ちゃんにメールを送る。
外を見ればメールを見たらしいちゃんが嬉しそうな顔でこっちに手を振った。
あぁ、場所も教えたのは失敗だったかな。見張られてることわかっちゃうじゃん。
でももう遅いし、とりあえず手を振っておく。

あの二人なら良い恋ができるんじゃないだろうか。
そう満足した。とってもお似合いだし、なんかすっきりしたな!たぶん!

場所を移動するため、大急ぎで屋上へ向かう。
着いて誰も居ないことを確認。深呼吸。よし、準備おーけー。
最後にちらっと二人を見下ろすと、良い雰囲気で笑いあってた。


息を思いっきり吸い込んで走って、
大声出しても正門側の表には聞こえない校舎裏へと向かった。
そして思いっきり叫んだ。





私の初恋さよなら! (2008.04.13)