翌朝。目覚めると隣りのユニはまだ眠っていた。
すやすやと寝息と小さくたてて眠るその顔はやっぱり幼くて。
そんな表情をしている彼女に、見ているこっちが安心する。
その健気な顔をそのままにしたくて、ユニが起きないようにそっとベッドから降りる。
まだ早朝なようで静まり返ってる屋敷。ユニの広い部屋では聞こえないだろうけど、回廊へ出るまでの扉もなんとなく音をたてないように開ける。

昨日少し歩いたとはいえまだ慣れない屋敷であるから、どこへ行こうかと左右を見渡したのはほぼ無意識だった。
右を見る。問題なし。左を見る。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

次の瞬間、思わず大きくのけ反った。そして半開きだったドアに頭をぶつけた。(いたたた)
左に顔を向けると、そこには壁に寄り掛かっていた幻騎士がいて、無言でこっちを見ていた。いやあびっくりした。
頭をさすっていると「起きたか」とやっと一言発した幻騎士。昨日と同じようなYシャツ姿だ。
ユニを起こさないように部屋から出て扉を閉めて彼と向き合う。
「おはよう。・・・なにしてんの?」
「白蘭様はおまえに起こされることをご所望だ。白蘭様の部屋まで来てもらおう」
なにそれ超イヤなんだけど
っていうか白蘭寝てるのよね。ってことは昨夜のうちに幻騎士をここに派遣してたってこと?人使い荒っ。(だから昨晩から服装変わってないのね)
朝からげんなりする。それでも幻騎士は私の意見なんて聞いてないようで、他の場所へ行こうとする私の前に立ちはだかる。



「(Σはっ! 待てよ。起こしに行くってことは寝首を掻けるってこと!?)」

「・・・ちなみにおまえごときに寝首をかけられるような白蘭様ではない」

「(・・・ちっ)」



そういえばこの人、10年後とはいえあの雲雀恭弥にも匹敵する強さをもってる人だった。
思ってることをまんまと言い当てられた私は、外を出歩くのはユニを連れてるときにしようと部屋へ踵を返すのだけれど
扉にかける手を寸前で掴まれ、それすらも阻まれる。
なにか言いたそうな目で私をじっと見下す幻騎士。負けじと彼を睨む私。

もう片方の手を扉に素早く伸ばす。そのもう片方の手も握られる。
そうくるのも予想済みだったので、私の手首を掴もうと前のめりになった彼の支えとなってる足に、自分の足をひっかける!
しかしひっかけようと片足を浮かせたせいで私の重心が一本足に。その操りやすい体制を狙ったのか、掴んでいた私の手首をひっぱり
部屋の扉とは真反対の、部屋正面の壁へ叩きつけられる。
壁に追い詰められ手も封じられ、足も失敗したけど、諦めの悪い私は頭突きをしようと頭を少し低くかまえるが
それも読まれていたのか掴まれていた片方の手は瞬時に放され、私の頭の上に肘ごと壁へつける幻騎士。
いつもの鎧姿じゃなかったからよかったものの、硬い筋肉で覆われた腕に頭突きした私のほうが結果ダメージが大きかった。
「はあっはあっ・・・しつこいわよ」
「諦めの悪い女だ」
正直勝てるとは思ってなかったけどさ・・・ここまでやる?
離れてしまった、幻騎士越しの部屋への扉と彼を交互に睨みながら隙をうかがう。どうにか部屋に戻れないかな。
しかしその思考も読まれてしまったのだろう。一つため息をついてもう一度「本当に諦めが悪いな」と一言いうとゆっくりと話し始める。



「ユニ様が起きられても、おまえに白蘭様のもとへ向かうよう勧められると思うぞ」

「うっ・・・(たしかにユニは、私と白蘭をくっつけたがってた)ユニは無理やり勧めないわよ。私が嫌がってるもの」

「それだけじゃない。白蘭様がこの屋敷に来たときから、警戒したγはユニ様が朝部屋から出て夜部屋へ戻られるまでなるだけ付きっきりで警護していた」

「え?」

「今日からおまえがいることでユニ様は断られていたが・・・毎朝γと共に庭を散歩するユニ様は、とても幸せそうだった」



正直、幻術使いである彼に期待するものではないとわかってても。
至近距離の真剣味をおびた目は、嘘を言っていない気がした。
なにより話に筋が通っている。γは昨日もずっとユニといたし、ユニの性格上私がいることで遠慮するのも納得がいく。
動揺して思わず黙っていると、諭すように静かに言う幻騎士。
「おまえが白蘭様を起こしている間に、俺がγへ伝えよう。ユニ様の警護を」
この時間ならあいつも起きている、と。すでにその場所を知っているのか、視線を一瞬外へ向ける。

癪ではあるけれど、それがどういうことかをわかってしまった私は。なによりユニのため、しぶしぶ頷く。
「・・・わかったわよ。行くわよ」
私が白蘭を起こしにユニから離れれば、ユニとγが二人きりで過ごせる。
全身の力を抜くと、それと同時に壁から離れ白蘭の部屋へ先導する幻騎士。
それに大人しくついていく。悔しいけど。
歩を進めるたび、ユニの部屋から遠ざかっていく。
(もうこれ以上ユニに頼るわけにはいかないな)
最後に扉を一瞥して、幻騎士の背中を追いかける。

10年後では。ユニとγは共に消えてしまった。アルコバレーノの運命を背負って。
たとえいまは無き未来でも。その記憶をもつ二人にも、影響を与えているのだろう。
いまから向かう同じ10年後に、あの10年後と同じ未来にならないことをただ祈っている。
二人が一緒に笑っていられる未来を。

「あなたは、ユニの気持ちの味方なの?」

前の背中にそう訊く。
いまのこの行動だったり。毎朝二人の幸せなひと時を見守っていたり。
なにがあったかは知らないけれど、もともとジッリョネロだった彼が白蘭のもとへ寝返ったことを知ってた私にとって、
彼のその奇妙な立場には違和感をおぼえた。その思惑が。
けれど私のそんな疑問も、半身ふり返った幻騎士の答えによって簡単に解決された。



「俺は、白蘭様の味方だ」



なにか決意のようなものを少し感じるような、静かな力強さで言う。
そのまま幻騎士はまた前を向き、白蘭への部屋へ進む。
(あくまで白蘭の命令を遂行するための手段って言いたいんだろうけど・・・)
けれどなんだか、さっきの決意がユニから距離をとろうとしているようにも見えて、
訊くだけきいて、「ふーん・・・」と大した返事もできずにただ彼のあとをついていった。

















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前いつ!? まず前の更新があけましておめでとうだったことにびっくりしたのですが
いやでもこれだけ更新しないの別にざらにあるんだよなと思うとちょっと反省しました。





2015.03.31