ジッリョネロのアジトだと言われた美しい庭で白蘭に捕まり、かれこれ数分。
合流したユニのおかげでなんとか白蘭の手から放れた私は、それからユニのそばから離れないでいる。(ユニに頼るあたり情けないと思うけどね、我ながら賢い判断だと思うよ)
とりあえず話しをしようと大きな部屋に連れられ、出されたお茶を飲みながら待っているとミルフィオ―レファミリーが揃う。
白蘭ユニ筆頭に、γ兄弟に幻騎士、真6弔花に・・・え、入江正一まで…!?
「のついでに、正チャンも拉致っちゃった♪」
「つ、ついでに拉致ってなんですか!! ボクついで!!?」
不憫すぎる入江正一は、10年後とまったく変わってないようだ。噂によると代理戦争にも居たらしいけど、見なかったわ。
まあ代理戦争に顔を出したのもの少しだけだし、それまで終始骸さんたちのそばに…。
(・・・・骸さん)
いまごろどうしてるだろう。というかあれからどれくらいの時間が経ったのだろう。
急にいなくなったし心配してるかもしれない。・・・ああでもユニに会うことは言ってあるし、とつぜん消えたらまず白蘭の仕業ってわかるか。
ここは下手なことしてないで、おとなしく助けを待ったほうが賢明かな。毎度面倒をかけて本当に申し訳ないけど。
私の心の声が聞こえたのか、ユニが私を安心させるように私の手を握る。
それを引き離すかのように私たちの間にズイと入りこんでくる白蘭。
「もユニも、あんまり二人でくっついてると妬いちゃうよ」
ぐいと私は無理やり白蘭のそばへ椅子ごと引っ張られ、白蘭が近づいたことで警戒したγがユニを反対方向へと引っ張り、私たちは完全に逆サイドへ引き離された。
うわあ・・・急に居心地悪くなってきた。すごく不安。
肩にまわされた腕を退けようとするともっときつく、しかもさらに腰にまで手を回される。ユニ助けて。
と思ってユニを見るけど、守られるようにγに抱きしめられてるユニの顔は見事に真っ赤で、あぁうんとてもお邪魔できない・・・。
「も、ユニのこと応援したいでしょっ?二人っきりにさせてあげようよ」
「それって、私とユニを引き離したいだけでしょ…!!」
ユニがいないところでなにされるかわからない。私ここにいる間はユニと離れてやらないからな!
白蘭のストッパーという意味でもあるけど、それだけじゃない。ユニと離れられない理由。
そっと辺りを見渡す。そうするともちろん白蘭やユニたちの部下であるミルフィオ―レ面々がいて。
「「「 ・・・・・・・ 」」」
余所者である私をずっと疑わしげに見つめて、いや睨んでいる。それはもう強面ぞろいが。
歓迎されてない感がひしひしと伝わってくる。いくらトップである白蘭が連れてきたとはいえ、良く思ってないのだろう。
一人でいたところに暗殺されるなんて、充分にありえるんだ。だから、ユニとは離れられない。
ひとまずいまの状況ではユニに助けを求められないので、せめて白蘭から離れようと
後ろから人の肩に頭を乗せようとしてくるこの人の顎を力いっぱい押す。
「とにかく、このままユニたちと一緒にイタリアに来ようが日本に残ろうが、どっちにしろ一回帰らなきゃ。骸さんたちになにも言ってない」
「いいよそんなの、僕が骸クンたち始末しておくから」
くっ、こいつ、何度腹殴ってもびくともしないんだけど。少しは痛がれよ。
腰を引き寄せられてるせいで蹴りは封じられてるが(それでも足は何度か踏んでるはず、痛がらないけど)、手は比較的自由なので攻撃くらわすもまったく効果がないようだ。
まあ聞いてはもらえないってわかってるけど一応主張しておく。少なくともユニだけは私に協力的だし。
ここが本当にイタリアだとするなら、いくら脱走したところで無一文で身分を証明するものがなにもない私が、身一つで日本にはまず帰れない。
大人しく助けを待つか、ユニに協力してもらうかのどっちか。それならばいま私にできることは後者しかない。
時間も時間だということでお開きになったお茶会。結局なにも決まってないのだけれど。
ひとまずは私はユニにつきっきりになることを許された。ここらへんはγたちがうるさかったけど。
やはりユニには敵わないのか、「さんは、私の部屋で寝食をともにします!!!」の鶴の一声で連中は黙った。
すでに入浴や食事は済み、一日を終えようとする私たちは、ユニから受け取った部屋着を着て、彼女とともにベッドへ倒れた。
「すみませんさん、とつぜんこんなことになってしまって…」
「いいよ、ユニは悪くないでしょ? ユニと一緒にいられるだけで嬉しいよ」
本当に申し訳なさそうに言うものだから、できれば気にしないでほしくて。彼女の気がまぎれるように頭をなでる。
そうすると頬を赤くさせながら、持っていた抱き枕に顔をうずめてくすぐったそうにするユニ。
服装は彼女の趣味かそうでないか、シルクのレースをあしらった清楚なワンピース。その姿はまさに天使。
「(ユニ、かわいいいい…)」
「(さん、ずっと頭撫でてる)」
もうこういうのユニは本当に似合うよね。清楚なお嬢様。
気を失う前にお茶しに行ったカフェでも、格好と雰囲気が絵になりすぎて困ったもんだった。
あそこのクッキーおいしかったな。みんなにも食べさせてあげたい。そういえばお土産用に注文もしていたのに…
(結局それも、渡せてないんだな)
骸さんに。千種に犬に。髑髏にM.Mにフランに。
それぞれの好きそうなものまでちゃんと選んだのに。こんなことになってしまって。
(会いたい)
コンコンコン
ノックが数回されたと思うと、廊下への扉が開かれる。
花瓶を持って現れたのは幻騎士。Yシャツ姿だし、花瓶は持ってるし一瞬だれかわからなかった。
「今日の花です」「ありがとう幻騎士」
もともと部屋に置いてあった花瓶と入れ替えに、持ってきた黄色いバラの花瓶を置く幻騎士。
ユニに挨拶する際に一瞬私とも目があったけれど、とくになにも言わずそのまま去っていった。
だけどその一瞬あった目がなんだかひっかかっていると、横でくすくす笑っているユニに気づく。
「・・・毎日花変えてるの?」
「はい。白蘭の気分でそのときのものを。今日はわかりやすいですね」
「ごめん、私あんまり花に詳しくないんだ。黄色いバラ?」
「黄色いバラは“嫉妬”です」
「あぁ・・・なるほど」
自分の存在をこの空間に無理やり入りこませてくるとは、さすが。うざい。
10年後で白蘭に関して調べてるときも、まあ花が好きなのかなぐらいには思ってたけど。
そういえば目覚めた部屋ではライラックがあった。あれも意味があったのかな。やけに強い香り発してたけど。
まあ知らないほうがいいこともあるよね。忘れとこう。
いろいろ疲れを感じはじめて、もう寝ようとユニと布団をかぶり電気を消す。
二人で並んでも十分に広いプリンセスベッドでは、二人とも少し距離を空けて寝やすいよう仰向けでいる。
「さん」
おやすみと告げる前に聞こえた声は、まだ眠そうな声ではなかった。
「骸さんが、好きなんですか?」
「・・・は?」
「それとも他に好きなかたがいるんですか?」
「ちょっと、どうしたのユニ。なんで―」
「私は白蘭が大好きです」
ゆっくり横を向くと、真剣に私を見ているユニがいた。
暗い中でもわかるほどに、大きな目は私を見据えていた。
「ミルフィオ―レだからとか関係ないんです。彼が心から望むものを見つけたのなら、私は心から応援したい」
「でもさんも大好きなんです。そんな二人が結ばれたら本当に嬉しいことです。これ以上の幸せ、私にはないです」
「でもさんにも心から望んだ人と結ばれてほしいです。だから、だからもし大切な人がいるのならっ…」
そこから先は私があてたハンカチで阻んだ。あまりにも、苦しそうに涙を流すから。
きっとこれらは全部ユニの本心で。心から白蘭を想ってのことで。
それが万が一、自分がまっすぐに彼を応援できないことになったときの申し訳なさまで、
全部真剣にユニが考えているから流れるものなのだと、その目から伝わった。その呼吸から伝わった。
こんなちいさな体した彼女に全部言えなんて、酷だとさえ思った。その先は言ってほしくなかった。
そんなちいさな体を抱きしめて、呼吸を整えるように背中を叩く。
「骸さんは、大切だよ」
「・・・・」
「千種も大切だし、犬や髑髏も大切」
「え?」
「M.Mとはよくケンカするし、フランも小生意気だけど・・・それでも大切な人たちなの」
こんなにまっすぐに伝えてくれたユニなのに、私はその真正面からの答えを出すことができなくて。
「あいにく恋だとか愛だとかするような相手はいないけど、みんなが私の一生大切な人たちなの」
それでもいまの私の真剣な気持ちをどうにか伝えたくて、このちいさな体を包み込んで強く抱きしめる。
一度止まりかけていたはずの涙をまた流して、ユニは私の肩口に頭をうずめる。
そのあとすぐに聞こえたくすっとした笑い声に、ようやく私たちは顔を見合わせた。
「さんらしいです」
「もちろんユニも大切な人よ」
「じゃあもう少し、ここに居てくれますか?」
「ふふっ うん、そうだね」
眠れない夜。涙を流すちいさな子を抱きしめ、大きな腕に包まれ、人と寄り添う。
この誰もがするような状況を、圧倒的に経験していない私たちは
この一度の経験を、二度と忘れないであろう。
「さっきびっくりした。ユニが白蘭のこと好きって言うから」
「Σえ!? あ、あれは!違うんですっ、その、ごめんなさい文脈おかしかったですねっ」
「ごめんごめん、からかって。γは?」
「!!!!! さん!! それがからかってるんです!」
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前いつ!? まず前の更新があけましておめでとうだったことにびっくりしたのですが
いやでもこれだけ更新しないの別にざらにあるんだよなと思うとちょっと反省しました。
2015.03.11