なにか気配を感じて、意識を取り戻した。
自分の体制や感触でベッドで寝ていたことがわかる。
意識を失ってたことからずっと閉じられてた重いまぶたをあげ、ぼんやりした視界から頭上へかかる影の正体を見る。

「あ、起きちゃった」
「・・・・・・」

その男はそう言うと腰かけてた椅子から立ち上がり、さっさと部屋から出ていく。
・・・たしかいまのは、真6弔花のデイジーって人。
なにしようとしてたかは知らないけど、寝起きに間近であの顔どアップはきつすぎる。
おまけに手は、私の首へ伸ばされかけてたし・・・。ホラー映画かと思った。

寝起きのインパクトが強すぎてぜんぜん気にしてなかったけど、そういえばここどこだろう。
辺りを見回しても、ただ清潔感あるシンプルな風景しかなく。
シンプルな部屋だからこそ、すぐ目に入ったひとつだけ際立つものといえば、ベッド脇にあった飾られた花くらい。
「ライラック・・・・・・・・だったような」
花にはそんな自信はないのでうろ覚えだった知識をなんとか掘り起こす。まあ誰もいないなか、正解かもわからないけど。
紫色の小さな花をしり目に、とりあえずベッドから抜け出す。
視界の端に自分の姿が映り、そのまま視線で追えば全身鏡の私はなぜか、らしくもないワイシャツに清楚なスカートを着ている。
鏡を見つめながら動けないでいる。私本当になにしたかな・・・。
明らかに自分の服ではないし、最後に着ていたのはM.Mからもらったスカー……――

そこで意識を失うまでの出来事を思い出す。私ユニと会ってて、喫茶店で意識失って。
最後に聞こえた声は間違いなく白蘭のもので、ユニも言ってたし。
ということはこの事態もまあ間違いなく白蘭のせいだとみていいだろう。そう考えただけでスムーズに推測できる。私拉致られたのか。
まあとうぜん私の次の行動は脱出を試みるのだけれど、下手に部屋から出ないほうがいいかな。窓から逃げたほうが遭遇しないで済みそう。
といっても外を見てみると結構な高さがあり、飛び降りるのは少し勇気がいる。4、5階くらいかな・・・。ちょ、ちょっと無茶そう。

とりあえずデイジーが出てった開けっぱなしの廊下へと続くドアから「白蘭様〜、起きたよー」という声が聞こえてくるので
やはり私は窓から脱出するのであった。
あの男と遭遇したらもう終わりであろう。さっさとずらかるべし!
しかし「ひっ・・・やっぱり高い・・・」途端にひるんでしまい立ちすくむ。ちゃ、着地できるか・・・!?
もうそうするしか手段は残されてないのに、現実的によくよく考えると着地できるような高さでないことに気付く。いや、いや、でも私骸さんたちとトレーニングしてたし!私だって!
あわあわ迷ってるとついに背後のドアが大きく開け放たれる。

「ー!! 目覚めたんだね、ってなにしてるの?」
「(――ええい、もういっちゃえ!)」

白蘭の姿を見るとやっぱり白蘭への危機感が勝り、意を決して私は飛び降りた。
しかし咄嗟に飛び降りたことで心の準備をしていなかったのがいけなかったのか、おちていく浮遊感が恐怖心をあおっていった。
腹をくくって、着地時の衝撃をうまく逃がすために足をのばそうとしても、すくんでうまくバランスがとれず。
もはや骨の一本や二本やられる覚悟で胴体を丸め、受け身の態勢をとる。
(ぶつかるっ―――)



ふわ―
「―っもーう。びっくりしたじゃん、いきなり飛び降りるなんて」



白い羽根が舞ったと思えば、視界いっぱいの大きな翼が私を覆う。
白蘭が着地すると同時に翼は小さく見えなくなり、代わりに白蘭が私の顔を覗きこむ。
「大丈夫?」
その顔はいつもより血の気が引いてるように青くて。普段も決して血色のいい色はしてないけれども、違いが瞬時にわかるほどの青さで。
そして見たこともないような、真剣な目で私を見つめていた。
珍しいその顔に思わず見とれてしまったけど、我に返って状況を確認する。

「あ、アンタから逃げて降りたのよ!」
「なにそんなに寝起き、僕に見られるのいやだったの?」
「そうじゃないでしょ・・・!」

「乙女ー♪」と勝手な勘違い解釈で上機嫌の白蘭から逃れようと体をよじるも、
このいわゆるお姫様だっこという体制はなかなか自分から降りられないものだ。ぜんぜん降りられない。
白蘭から逃れるために落ちたのに、地面にぶつかる前に白蘭に抱えられ、結局捕まってしまった。
もちろん「早く下ろして」と下りたいことを主張するも、「やだ♪」白蘭がそれを聞くはずもなく
部屋と同じようにシンプルで手入れの行き届いてる綺麗な庭に、似つかわしくない言い合いが響く。



「そういえばここどこ。雰囲気が日本じゃないわよね」

「ピンポーン。ここはジッリョネロのアジトだよ」

「は?」

「さん!」



現実だと思いたくない白蘭の発言に、
遠くから聞こえてくるユニの声に、現実だと悟ってしまった。

















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デイジー、ホラー担当←




2014.05.01