「すいません、氷帝の者です」
「はい、氷帝様ですね。ご注文の物を持ってきますので少々お待ちを」
帰ったら、前から思っていた私の疑問を今日こそみんなにぶつけてみようと思う。
部活で使う物がなくなって、買出しに行くのはべつに普通だと思う。買わなきゃないのだから。
私もそこに文句があるわけでもない。買い物好きだよ。
普通にスポーツ用品店行って、普通の物を買うの。
「特製ドリンク粉タイプ50万円、ドリンク粉タイプ(箱)100万円
特製テーピング16万円、テーピング(箱)20万円…」
なんで氷帝の買う物は、万単位の値段なんでしょう。
っていうか、特製ってなんだ特製って。
やっと会計を終えた200人分の買いまとめ。200人も居るからそりゃ高くなるだろうけど、
レギュラーの分の、特製って高すぎだろ。なんだこの差は。なんで200人分の半分が8人なんだよ。
そうこの大量の荷物を睨んでると、横の人がひょいと持ち上げた。
「あ、監督!」
「行くぞ、」
この少女じゃ絶対持てないであろう荷物を、ほぼ監督が持っていってしまった。
っていうか、監督目立つから絶対車から出ないでくださいっつったのに。
車までは頑張るつもりだった私の何度目かわからない覚悟は、今日も無駄に終わった。(周りからの視線が痛い・・)
氷帝から少し離れたこのスポーツ用品の大型店は、絶対電車でなんか行けない。ってか荷物あるし。
なので車で行くのだけど、なんでか車は榊監督の私物。そして監督が運転。
去年までは氷帝の車だった上、べつの人が運転してくれてたらしい。っつか前のレギュラー専属マネまで。
ついに私がレギュラー専属マネという、マネージャーにとってトップ地位に立った途端にチェンジ。
「、シートベルトは締めたか?」
「はい」
助手席に座るのは、けっこう精神的にキツイです。
これ一回、男テニ関係者以外から見られて、変な誤解されたからね。
『男テニの監督とレギュラー専属マネはデキてる』
・・・・まぁ誤解するだろうね。私も傍からみたらそう思う。今度から噂話とかしないようにする。
「毎回すまないな。こんな大荷物を」
「それはべつに構わないんですが、いい加減車内で待っててもらえませんか?」
「荷物の重さを考えるとな・・・どうしてもが心配になってしまうのだ」
だからいけるっつってんのに。レギュ専属マネの力、ナメないでほしい。
私は別段可愛くないし、男テニレギュラーたちの友達でもない。
だから当然コネなんてない、一から地道にランクを上げてきたのだ。・・・普通はそうなんだろうけど。
でも大抵レギュラー専属マネージャーともなると、コネなしではほぼ成しえない地位。
その地位に座れるのはたった一人だけで、
その一人は男テニや監督たちの推薦で、入部が八の位置からやってる人で埋まるのだ。(やっぱり出来る、的な)
私は氷帝自体にだって中学から入学したんだ。
お金はあるけど、頭がない。そんなのは嫌で勉強しまくって。
でも「お金はあるけど使わない」が父で、庶民として過ごしてきた人生がいきなり変わるはずもなく。
こう思い始めたのは小学一年生のときだけど、やっとその想いが実ったのは中学に入学したとき。
そらもう地道にやってきたさ。根性だけは私でも、氷帝一だと思う。
趣味が節約・貯金の両親に無理言って、入学させてもらったこの学校。頭だけじゃなくマナーとかも学びたい。
そう思って日々勉強、部活だってこの倍率の高すぎる男テニマネにした。敢えて。
それを勝ち取るまでの日々はもうひたすら根性。腕力・脚力だって並じゃないんだ!
・・・ということを言いたいのだ。
あ、長くなってしまった。まぁいいや。監督を意識する時間が減った。
「、もう着く。リモコンを」
「あ、はい」
氷帝の駐車場へ入いるためのリモコン。ゲートを開けるためのものだ。
もう着くってことは、もうすぐ終了時間になるかな。
レギュラーたちのタオルも用意しておいたし、遅刻しても大丈夫だろう。
そう思って着いたあともゆっくり部室へ向かう。
時計を見たらやっぱり少し遅れてて、早く切りあげる岳人辺りはもう着替えてるころだ。
んま岳人なら裸見られても平気でしょう。(岳人は男テニ唯一の仲良しだし)平然と部室へ入りまーす。
入ったら着替え中の岳人が居た。
「あ、侑士。跡部との話なんだったんだ?」
「(誰がユウシだ。ちゃんと相手を見て話せ)」
「どうせと監督のことだろ。あれ絶対デキてるよなー」
「せやなー。お前と忍足も怪しいもんやで」
「っ!?」
岳人にノって忍足みたいに関西弁で喋ったけど、これじゃあ忍足じゃないって言ってるようなもんじゃん。
もちろんそれに気づいた岳人(パンツ一丁)は、慌ててコッチへ向いたあとにジャージで身体を隠す。
「お、おまま、!!」
「誰がデキてるって。そっちでしょうが」
「俺はホモじゃねぇ!」
部室にあるソファに置いてあったクッションを投げられ、それを避ける私。
岳人は部室から追い出そうと、私は買ってきた物をしまおうと。投げられ、避け続ける。
「いい加減、お前出てけよ!なに普通に入ってんだ!」ブンッ
「岳人には興味ないから。そんな目で見ないから安心して」ひょい
「Σできるかっ!」ブンッ
「んじゃそっち見ないから。そんなことより物置かし…」ひょい
「っぶ!」バスッ
私が避けた瞬間、後ろから人の声。それと避けたはずのクッションが当たった音。
岳人といっしょに「ん?」と思って後ろを見れば、顔を押さえて屈んでる忍足。
「侑士!」
「たりーくんじゃん。何してんの」
「お前が避けたクッションが当たったんや」
ハッハー。お前見事に当たってやがんだ。鈍くさいねー。
そう思って笑ってるとトレーニングルームのほうから「ひで・・・」との声が。
あれ、宍戸くん。君もいたの?と、ついでに鳳くん。
二人は着替えてないところを見ると、まだ練習ってか鍛えてるんだと思う。汗だくの二人。
そんな二人を見てると今度は外から「あ?何してんだ」と跡部さんと樺地くんと日吉くんが入ってくるし。
最初っからいたのか、ソファからむくりと起き上がる芥川くんもいるし。
岳人は忍足の側によって「侑士ー!大丈夫か!?」といつのまにか倒れてる忍足を揺さぶるし。
みんななんか私見てるし・・・・。
あ、あれ・・・?なんかわかんないけど、
これどう見ても、私が悪役じゃね?私が悪いみたい?
ちょちょちょ、ちょっと待てやー!クッション投げたのは岳人だろうが!
それをちょっと笑ってただけじゃん!え、え、え、宍戸ー!!発端はお前だ!
お前が一番最初に私をそんな目で見るからみんなそうなっちゃったんだ!お前だけは努力仲間だと思ってたのに!
そうちょっとした危機的状況を弁解するべく思ってたが、
それを言う前に、独りめんどくさそうにしてる日吉くんが「先輩、状況説明をお願いします」と言ってくれた。
お、おまえ・・・日吉いいやつだな。
知らなかった。お前は悪い奴だと思ってたよ。ごめんね。そういえば君も努力家だよね。よし、新しい努力仲間だ。
宍戸なんかポイ捨てだ!裏切りやがって!
と、そんな個人的意志はおいといて、みんなに真実を説明する。途中たびたびさっき思ったことも言う。
「岳人が投げたんでしょー!なんで私が悪いことになってんの!」
「お前がノックもしないで着替え中に入ってくるからだろ!」
「まだ練習中だと思ったんだもん!あ、私の時計遅れてるみたい!」カチッ
「今セットしただろ!!」
もう岳人はうるさいな・・!だから岳人の着替えなんて興味ないっつってんでしょ!
めんどくさい!多数決でどうだ!!そう言えばやってやるとノり気な岳人。
「はい、それではー!悪いのはどっち!!」
「「「「」」」」
「あ、あれ・・・」
しかし、私は見てしまった。跡部さんと樺地くんが言ってないではないか!
呆れてんのかどうでもいいと思ってんのか、ため息をついたあとに奥の部屋に入ろうとする二人。
「まー、待って!まだ部長が言ってないよ!部長の票はアンタら全員分の票。プラス樺地くんで私の勝ち!」
「それ多数決じゃねぇだろ!!」
つっこまれたことは無視して、これは我らが跡部様に縋るしかない!
どうか跡部さん!私の勝利の神となって!
「で、跡部さん。どっちが悪いと思う?」
「普通にお前が悪いだろ」
「あ、即答ですか・・・」
一刀両断。あっけなくフラれました。って、えぇぇ!?結果、私が悪いんですか?
そう逃げられた勝利の神に訊けば、「向日だろうが、着替え中入ってくるのが悪いだろ」とまた斬られ・・・。
えぇぇ・・。岳人ごときならいいじゃん。岳人だよ、岳人だよ?恥じを知らなそうな岳人だよ?
そう言うと岳人に「お前ら、俺のことなんだと思ってんの?」と言われるがまた無視して
当の跡部さんはしつこいとか思ったんだろうか、さっさと部室に入られる。
「えーそんな。岳人の写真とか手に入れても10万で落としてくれるお嬢様に即売るくらい、興味ないのに」
「(侑士、俺そろそろ傷つきそうなんだけど)」
「(しゃーないやん、あのやし)」
と、私は壁に寄りかかり不貞腐れてると、鳳くんが私の視線にあわせてくれるように(むしろ自分が上目になるくらい)屈んで
「で、でも先輩は知らなかったんですよね。時計が遅れてたんですよ」
とかなり無理があるであろうフォローを、笑顔で言ってくれた。・・・優しいなぁ。(きゅぅん)
そんな鳳くんの優しさに負け、過ちを認める私。うん、もうこれからはノックしてから入いるよ。
そう思って岳人に向かって謝ろうとする。
「まぁ・・岳人。私が悪かったよ。ごめ…」
「おい。テーピングはどこだ」
・・・・・・・。
って、Σはっ!私そもそも荷物置きに部室に来たんじゃん!
部室に入ってった跡部さんのセリフで、私は本来の用事を思い出した。
急いで奥のロッカールームに入って荷物を整える。
「お前、切らしてんじゃねぇよ。マネージャーならもっと早く補充しとけ」
「今さっきやろうとしたんだよ!岳人に妨害されたの!」
「あ?」
レギュラー専用の特性テーピングを一つ跡部さんに渡し、他のを規定の場所に置く。
その間に喋って言い訳をしたけど、ふと見たら跡部さんの疑問顔。(あれ、何?)
「お前、買出し行ってたんだろ。いつ帰ってきた」
「最速で、部室に着いたのはホント今さっき。切れそうだから早く補充しようと思って…」
「・・・そうゆうことか。なら向日だな」
「は?」
跡部さんの謎の言葉に、開けっ放しのドアの向こうのみんなも固まる。
突然名前を呼ばれた岳人はもちろん、被害者の忍足やフォローしてくれた鳳くんもみんなが跡部さんを見る。
すると「なぁ樺地」「ウス」とさらに謎な会話を樺地くんとしてから、跡部さんは言った。
「はいつも通り最速でマネージャーの仕事をしている、出来るマネージャーだ」
「え、ど、どもです」
「なら邪魔した向日が悪ぃ」
「えぇぇ!」
こ、ここに来てまさかの撤回・・!え、じゃあ私が悪いわけじゃなくなったの?!
このことに、文句がありそうに跡部さんに怒鳴る岳人。しかし、跡部さんの
「買出しの運転は監督だからな。文句は言えねぇ」
と、確かに私ではどうにもならないことを言ってくれたので、岳人は黙った。
え、もしかしてさっきの“「なぁ樺地」「ウス」”は二人とも私の味方って意味?
・・・・・・。
「ほら、見事に部長+αで多数決、私の勝ちだ!!」
「だからそれ多数決じゃねぇって!!」
岳人が歯向かう。ふふふ、だけどもうこうなったら私の勝ちは決定よ!!
予想の通り、日吉くんや宍戸たちも『それじゃあ仕方ない』と私の味方に回ってくれたし。(まぁみんな、他人事だもんな)
忍足くんも「まぁ岳人だったらいいやろ」と見事に親友裏切って、私の味方になったし。
あれ、っていうかコレみんな岳人を裏切ってるよな。
「お前らそれねーんじゃねぇか?!俺の立場だったら文句言ってるだろ!」
「向日先輩と先輩の仲で、向日先輩ならいいんじゃないですか」
「日吉、お前かんっぺき俺のことナメてるよな・・・」
まぁ岳人をナメてるのは鳳くんと樺地くん以外全員だと思うよ。岳人だしね。
事件も解決・・・ということで、みんなそれぞれ動いていく。
宍戸と鳳くんはトレーニングルーム戻って、他のみんなはロッカールーム。うん、私はどうしようかな。
とりあえずマネージャーの仕事を再開しようと、私もロッカールームへ行く。
そうするとソファに寝っ転がってた芥川くんが話かけてきた。
「さんも仕事のこと早く言えばよかったのに。そしたら俺もフォローできたC」
「芥川くんずっとココにいたの?岳人止めてくれればよかったのに」
まぁいつも眠そうな君には期待してないけど。それは言わないどく。
その芥川くんをスタートに、今度はみんなして私をフォローしてくれる。
「それ早く言ってくれれば怒らんかったんに」「それなかったら、完璧悪いやつだけどな」
私だってそんな悪趣味じゃないさ。人の着替え覗くような。
・・・・ってか、君たち気づいてる?そこの岳人がすっかり傷ついてるよ。
自分のロッカーの前でずーんと重たい空気を背負い、陰で着替える岳人。その後ろ姿は居た堪れなさを感じた。
「岳人。岳人はべつに悪くないよ。知らなかったんだもんね」
「・・・・・」
「ちょっと見れてよかったよ。かっこいいね、意外にたくましい身体」
「っ!う、うるせぇよ!お前もう出ろ!」
「(岳人、そこで嬉しそうにしたらアカンやろ・・・)」
フォローしたらまた怒られてしまった。
そしたら「、覗く趣味がねぇならもう出ろ。俺が着替える」と跡部さんに言われたんで、ついでに出とく。
・・・・・跡部さんの着替えシーンは儲かりそうだな。
ちょっと私も見てみたいし。あの跡部様の身体はどんなもんなんだろうか。
と危ないことを真顔で考えてると、頭にチョップをくらった。
「痛っ・・・ちょ、宍戸何すんの」
「お前こそ何へんなこと考えてんだ。目がギラギラしてる」
あらら。野望に夢中になりすぎたか。まぁ全部冗談だからいいけど。
そう思って「着替えだって追い出されたからマネ業どうしようかと・・・」と誤魔化す。
だったら他の仕事だっていっぱいあんだから、そっちやればいいんだけど。そしてそれを宍戸に指摘された。
はいはいと言いながらレギュラー専用の部室を出る。今度は平部員の部室に行こう。
・・・・・・・って、今日もくだらないことに話が逸れてしまった!訊くの忘れてた!!
あぁ、もうどうでもよくなってきた。氷帝なんだよ、氷帝だから高くて贅沢。これでいいよ。
んじゃ次の謎に挑みますか。
榊監督は何故あんな金持ちなんでしょう。何者なんでしょう。
私とのあの噂流れて、なんで嬉しそうにするんでしょう。