外でチュンチュンと小鳥が鳴くころ、私の仕事は始まる。
コンコン
目の前のドアを叩き、中に居る人へ声を掛ける。
「です。失礼します」
そう告げてからその部屋のガードマンに合図を送り、ドアを開けさせる。
今はこの人のために存在する特別な部屋。その部屋のドアは軋むことなく、音を立てずに開く。
私もなるべく音を立てずに入り、その人の許へ行く。
「すー・・すー・・」
今日も私の声、そして足音に気づかず寝ているままでいる十代目の寝顔を見る。
彼は安らかに。いや、まるで死んでいるようにぐっすりと寝てしまっている。
そんな彼を微笑ましく思い、今日も私にとっては優しく、彼にとっては厳しい起こし方をしようと思う。
彼が寝ているベッドの近くへ行き、仕事上の一定の距離から彼を起こそうと声を掛ける。
「起きやがれツナ。さっさと起きねーと頭ぶっとばすぞ」
「う、わぁぁ!!!」
リボーンに似せた私の声を聞いた十代目は、ベッドから飛び起きる。布団を跳ね除けて。
今日も素敵な叫び声でございますね十代目。貴方のその可哀そうな声が大好物です。
と、本音は置いといて、「十代目、おはようございます」と微笑みかける。
十代目は一瞬わけのわからない顔をしたが、一息吐いて「またか・・」と言う。
そう、十代目がココへ来たときから、私は毎日この方法で十代目を起こしているのだ。
始めは『十代目はリボーンに弱い』という噂の実験のつもりでやったのだが
あまりにも十代目の反応がいいため、こうして毎日やっている。こうでもしなければ十代目は起きないのだし。
「(うずうず)」
「(あ、)おはよう、」
「はい。おはようございます」
十代目が挨拶してくれ、ようやく次の仕事ができる。
部屋のカーテンをすべて開け、今日は心地よい天気なので窓も開ける。
「夢見のほうはどうでしたか?」
「のおかげでヤな夢ばっかりだよ」
その間に十代目の様子や気分を聞く。
うふふ、嘘を仰るんですね。とても安らかに寝ていましたよ。
そう言うと、十代目は拗ねたように「途中で目が覚めて・・・今は夢みなかったよ。よく眠れたから」と言った。
毎日のようにリボーンにしごかれてたらよく眠れる。夢みるときは決まって嫌な夢。
とのことらしい。そうですか。それで何故、私のせいになるのかがわかりませんが。
それは言わずにいると「は優しいけど悪趣味だから」と十代目は続けてくれた。ふふ、それでもよくわかりませんがねぇ。
そう静かに笑うと、その所為か開けた窓から風が入った所為かわからないが、十代目は寒そうに布団を被った。
「窓、閉めますか?もう寒い季節ですものね」
「あ、いいよ。大丈夫だから」
「そうですか。それでは十代目。お着替えをしましたらまたお呼びください」
着替えを十代目の側に置き、私は部屋を出る。
次は朝食。十代目が着替えるその間に『あっち』も起こしに行かねば。
少し早足でそのゲストルームへ向かう。この広い廊下を静かに。
ココはイタリア、ボンゴレ本部。城内はすべてボンゴレ関係者。
つまりココにいる私もボンゴレ関係者。そして今起こした十代目も、これから起こしに行くあの人も。
先日、次期ボンゴレ十代目として選ばれた沢田綱吉さんを教育しにいったリボーンから連絡があった。
それは『十代目一同、守護者を連れていく』というもの。つまりリボーンは帰ってくるってこと。
そして十代目も含め、守護者たちもボンゴレとは関係なかった者たち。
その人たちは、『やってくる』ということ。
昔から腐れ縁だったリボーンとはお互い信頼しあえる仲。神出鬼没な彼が連絡を寄こす相手は私ぐらい。
この連絡がきたときは錯乱し戸惑ったが、私も九代目に仕える者としてすぐに伝えた。
もちろん九代目も驚かれたが、「大いに歓迎!」と十代目たちを迎える準備をすることになった。
そしてやってきたリボーン、十代目一同。
日本から飛行機できて、空港でお出迎えの総責任者は私だった。
私も、私の部下たちも未来のボンゴレを担う十代目と守護者を見るのは初めてで、飛行機から降りてきた彼らを興味津々に見ていた。
しかし、降りてきた十代目の第一声は『こ、ココどこ!!?』だった。
私の部下たちはそんな彼を見て不安に思っていたが、私はリボーンという奴をよく知っていた。
どうせろくに説明もしないで無理やり乗せきた、というのは予想内だった。
だから慌ててる、まだ少年という年齢の若い彼らに
『ようこそイタリアへ、十代目』
と微笑みかけ、彼らを安心させようとした。
それを見た彼らは笑って落ち着いてくれたが、十代目だけはさらに混乱してらっしゃった。
それから数日間、このボンゴレ本部で修行することとなり、今に至る。
九代目の命令で、そして何よりリボーンや十代目の希望で私は彼らの世話係をすることになった。
と、まぁ数日かけて彼らを観察していたけど、十代目が一番可愛くて面白い。彼ならボスになってもいい。
こうして私は十代目とちょっと遊んでいる。おかげでとっても仲良くなれた。
(お、さすがキャバッローネ)
目的地である部屋の前にはボンゴレではなく、キャバッローネファミリーが見張りをしていた。
十代目一同がやってきて数日後、キャバッローネもボンゴレへやってきた。
キャバッローネのボスが十代目と兄弟弟子なようで、様子を見にきたらしい。長らく居たので泊まってった。
見張りの彼らに話し、コンコンとドアを叩く。しかし返答なし。
さっきと同じく、見張りにドアを開けさせる。十代目の部屋と違って、少しキィとドアが軋んだ。
その音は私の嫌いな音で、たしかこの男も嫌いな音だったはずだ。
なのに、その男がいる辺りから何の声も聞こえないのは、十代目と同じくまだ寝ているからなのか。
「・・くー・・くー」
やっぱり。小さな寝息を立てて熟睡している。
また一定の距離で話しかけよう。コイツもリボーンの教え子だ。
そう思い、さっきと同じように『リボーンの声』で話しかける。
「起きやがれディーノ。さっさと起きねーと頭ぶっとばすぞ」
「う、わぁぁ!!!」
見事に同じか。リボーンは一体どうゆう教育をしているんだ・・・。
そう思っても口に出さず、「おはようございますディーノさま」と挨拶する。
そうすれば彼は、辺りを見回したあとに「・・・リボーンは?」と私に訊く。
もちろんあのリボーンが態々起こしくるはずもなく、この場には私とディーノしかいない。
私が脅し起こしたというのを数秒かけてやっとわかったのか、ため息をつきながら「・・おはよう」と言ったディーノ。
「お前、ほんっと趣味ワリーな」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてねぇよ」
苦笑しながら布団を直すディーノ。私はカーテンを開けながらまた訊く。
「ご気分のほうは?」「目覚めるまでは最高だった」
血が繋がった兄弟でもないのにどうしてこう似てるのだろう。リボーンの教育?
私が全てカーテンと窓を開け終わり、着替えを彼の元へ置こうと行くと彼はベッドから起き上がろうとしてて…
「っ!あ、ディーノ!やめなさい!」
「へ?うわっ、!」
ドンッと音を立てて、頭から床へ転び落ちそうになったディーノを庇って、私は彼の下敷きになった。
いててて、と痛がるディーノ。私のほうが痛いし重いわよ!さっさと退け!
それを言う前にディーノは私から退いて、「わ、悪い!大丈夫か?」と手を私へ差し伸べる。
ディーノにしては早く対応したので、そこは許して手を取りご好意に甘えさせてもらった。
「大丈夫。でも相変わらず部下いないと鈍くさいわね」
「はは・・」
「ったく、ベッドぐらい一人でも降りられるようにしなさい」
そう説教みたく言うと、さすがにディーノも言い返す。
「なぁ、。一個とはいえ、俺はお前より一応年上なんだけど」
「全然年上に見えない、認めない」
が、容赦なくこっちも言い返す。
だいたい歳なんて関係ないわよ。昔っから逃げ腰弱虫なディーノより、私のほうが強くて才能があった。
だから年上だとか同盟ファミリーのボスだとか、そんなの関係なしにこの人にはタメ口だ。
でも完全に無視ってわけにもいかないので、せめて九代目の影響下にあるボンゴレ内では敬語を使ってる。
しかし、さっきみたいにディーノがバカやらかしたときは、一気に敬語使う気が失せる。
ので一時的に素に戻ってしまう。これは見逃してほしい。
っと、いつまでもゆっくりしてるわけにはいかない。さっさと十代目のところへ戻らなきゃ。
「ごほん、では着替えてください」
「もう行くのか?」
「十代目がいますので。それと狭くてもちゃんと洗面所などで着替えてくださいね。外から見えますよ」
「なっ・・!」
ディーノが何か言おうとしたが、出るときにわざとキィと音を立ててドアを開け、黙らせた。
そして外にいたロマーリオさんにタッチして、「ではまた」と言って十代目の許へ向かう。
「かっはっは!ボスもには逆らえねぇな!」
「アイツは昔っからあーだったけど、最近はひどいからな。なんだよ、外から見えるって」
いつまでもへなちょこの餓鬼じゃねぇんだよ・・。
カッカッカッ
広い廊下を早々に歩く。急いでるので、少々音が鳴っても構わないだろう。
しかしディーノがバカやらかすせいで、大分タイムロスしたわ。十代目を待たせるわけにはいかないのに。
そう思って、ココンッ「十代目、失礼します」とすばやく言って入る。
すると中には、十代目右腕候補の二人が居た。
「あ、」
「おはようございまーっス」
「よっ」
少し驚いてると挨拶された。さ、先にされた・・・。世話係としてショック。
そう思いながらも笑顔で「おはようございます。お二人とも、早いですね(護衛が)」という。
十代目と雷の守護者以外、他の守護者は自分で起きる。朝が早いのはとてもいいことだし何より助かる。
だからそのままにしといたが、まさか護衛までこんな早いとは。さすがリボーンがスカウトしただけある。
そう二人に感心していると、いつの間にか
「当たり前だろ!俺は十代目の右腕だからな!」
と右腕について語っていた獄寺隼人さん。当の十代目は無視のようだ。
「では朝食へ参りましょうか」
仕事を再開し、彼らをダイニングへお連れする。彼らは元気のいい返事をしてくれた。
ドアの外へ居るガードマンに合図し、ドアを大きく開けさせる。
(十代目たちの朝食に就いて・・・ダメだ、雷の守護者を起こし、他の人たちにも声をかけなければ)
そうこれからのスケジュールを調整してると、3人で話してた後ろの武さんが私に話かけた。
「そういえばツナがちゃんとボスになったとき、さんはどうなるんスか?できれば一緒がいいッスね」
「では十代目の秘書にでも就けさせていただければ、光栄です」
「ひ、秘書!?」
えぇ、今よりも地位は高いですしね。それにずっと十代目を見ていられる。
慌てる十代目を見てて余計に思う。どうして彼はこう素直で可愛いのだろう。からかい甲斐がある。
そうケラケラ笑っていると、獄寺さんが眉間にシワをよせて考えてる素振りをみせる。
「お前、戦えんのか?」
「一応ヒットマンではあります。リボーンと一緒に修行してたので」
「え、リボーンと!!?」
「だいぶ差をつけられてしまいましたが」
彼はアルコバレーノ。私はタダのヒットマンだもの。差はあって当然なんでしょうけど。
まぁ呪いかけられなかっただけいいけど。強すぎるのも困りものね。
そう思って彼のあの幼い姿を思い出す。黙ってりゃ可愛い容姿してんのに。言動が似合わない。
「んでも小僧が、さんは強いって言ってたッスよ?」
「まぁ、並以上は」
「リボーンさんが認めるってだけで、すげーじゃねぇか」
「そうだよ、リボーンってぜんぜん人の実力認めたりしないよ」
あぁもう、リボーンも十代目たちの半分でも可愛かったらな。いっそ親切心をもらえばいい。
そうジーンと十代目たちの優しさに感動して「ありがとうございます」と微笑む。
その瞬間に目の前のダイニングのドアを開けるため私は正面を向いたので、
後ろの十代目たちが、赤面していることに私は知れなかった。
(十代目たちが食べてる間にさっさとコッチも済まさなきゃ)
タタタタタと十代目よりは格下だが、まぁまぁよい部屋へ行く。
コンコンとドアを叩き、恒例の挨拶と合図をしてドアを開けさせる。
今回は一定の距離ってわけにもいかず、直接手をかけなければ起きてはくれない。
その人へ近づき、少しづつ揺する。
「ランボさん、起床の時間です。起きてください」
「うぅ〜ん・・・。ぶどうアメ〜〜」
「朝食が終わったら用意しますので、起きてさっさと食べちゃいましょう?」
「食べるーーー!!」
ランボさんも本当に可愛い。実に食欲旺盛で元気で健康そのものだ。人間素直が一番。
「ランボさん、おはようございます。ご気分はどうですか?」
「さいっこーーう!さっさと抱っこしろーー!」
「お着替えを先にしましょうね」
今日も朝から元気いっぱいではしゃぐランボさん。
この、“ランボさん”というのは、ランボさん自身の一人称でもあって(他にもおれっちなど様々ある)
人にこの呼ばれ方をするとすごく喜ぶ。まぁ私以外、してる人はいないのだが。
だからこそ、私がこう呼ぶたびに彼は喜んでくれて、私も嬉しい。
みんなウザイとかいうけど、こうゆう類は下手に出て煽てれば扱いやすいんだよ。
ダメなところは叱りますけど。そのあとちゃんとわかってもらって褒めれば、信用してくれる。
だから、ランボさんとここまで上手く接することができるのは私だけ。らしい。(十代目いわく)
着替え終えて、ランボさんを抱きかかえて外へ行く。
(このままダイニング行くしかないかな。偶然出てきてくれないか)
そう思ってチラッと窓から外の庭を見ると、近いところにランニングしてる探し人を発見。(おぉラッキー)
そこから窓を開け、その人笹川了平さんへ声を掛ける。
「了平さーん、おはようございます。朝食の時間です」
「むっ、おぉか!わかった、待ってろすぐ行く!!」
「え?」
ま、待ってろってココで?
そう思った途端に了平さんはダダダダダーと走り去っていってしまった。
・・・・ココで、待ってろってことだろうな。ダイニングに来てもらおうと思ったんだけど。
「早くいくぞーー!」
「ランボさん、少々お待ちください。あの調子じゃもうすぐで…」
「極限ダーーッシュ!!」
早っ。ココ三階なんですけど、あの階段と廊下をつっ走ってきたのか。
そう思ったけど
「おはよう!!」
と大きな声で挨拶され、
「お、おはようございます・・」
つっこむ機会を失った。相変わらず本当に健康な人だ。
「では極限、いくぞー!」と片腕で背中を押されて、私は歩き始める。
この人は勢いが強すぎて、どうにもリードできない。しかし男前で素敵だとは思う。しかし仕事ができない。
そんな彼に、そして自分に苦笑いしながら前へ進んでいく。
手に抱えてるランボさんは「!ランボさんはお腹ぺんぺこりんなんだもんね!」と無邪気に笑う。(ぺんぺこりん?)
そんなランボさんが自分の子供のように見えて、了平さんが夫のようで
まるでこれは『家族』のように暖かい雰囲気だった。
と、了平さんとこんなことして奴が黙ってるわけなく
バンッ
「!アンタあたしのダーリンに何してるのよ!!」
まさかの展開。でもルッスーリアが変態でオカマなことは前から知ってたし、リング争奪戦で了平さんを気に入ったってのも知ってた。
しかし、まさか目の前の部屋から出てくるとは思いもしなかったよ。このストーカーめ。
「ちょっと!今あたしのこと『ストーカー』とか思ったでしょ!!」
「思うよそりゃ。アンタじゃ洒落にならないけどね」
ムキーーと歯を食いしばってるルッスーリアを無視して行こうかと思ったが、そのルッスーリアが
「この浮気者ぉぉっ!!」
と、了平さんに攻撃を仕掛けたために無視できない状況になってしまった。
さすがの了平さんはひょいっとかわしてたが、了平さん自体が戦う気もなく逃げる気もないようで説得するようだった。
「〜〜。ランボさんは・・お腹がへったぁぁ」
「ランボさん、話が長くなると思うので、先に行ってていただけますか?」
「おれっち一人?」
「えぇ、一人で行けますか?」
「アメ5個?」ニコッ
「えぇ、増量します」ニコッ
「おれっち一人で行ける!」
ひょいっと今度はランボさんが私から降りて、ダイニングの方へ向かうのを見送る。
「浮気もなにも、俺は最初から一人だけ心に決めている!」
「それがその女だっていうの!?あたしじゃないっていうの!?」
「そうだ!」
「っ、バカぁぁぁぁ!!!」
・・・・・・・さてこの人たちどうしよう。
っていうか、何この会話。そうだっつった?了平さんそうだっつった?
とにかくちんたらしてる暇はないので、私がこの二人を説得しよう。
「ルッスーリア。ちょっと話がある」
「うるさいわよ!裏切り者!」
「ルッスーリアにもいい話だよ」
「何かしら」
態度変えんの早。まぁ利口というべきか。
今は了平さんいるから後でがいいので、ルッスーリアと待ち合わせして一旦帰ってもらった。
(あ、)
腕時計を見てみたら、だいぶ時間がすぎていた。もの凄いタイムロスだ。
次の仕事が間に合わないので、了平さんには一人でダイニングへ行くように言い、私は次の仕事をする。
さて・・・あの人たちはどこだろうか。
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